東新宿駅から徒歩3分ほどの場所にある「東宝湯」は、新宿の繁華街にも近いのが信じられないほど静かな住宅街の一角で営業している。店は抜弁天通りから一本入った久左衛門坂に面して建つビルの1階にあるのだが、入り口はその久左衛門坂とは反対側にあり、通路を通り抜けた先の梯子坂に面している。説明がわかりにくいかもしれないが、訪ねるのが初めてなら、まるで秘密の銭湯を発見したような気分になるかもしれない。

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 さて、お店は昭和27年の創業。経営者の坂本さん一家は戦前質屋を家業としていたが、戦後近所の人々の要請があって銭湯を開業したという。長らく銭湯を人に貸した時期を経て、2011年からは坂本家が家族一丸となって営業している。

「最初はわからないことだらけで不安でした」と話す坂本繁靖さんは、縁あって仕事をすることになったのだが、当時銭湯の仕事は未経験。最初は段取りが悪く、昼の2時に開店するために朝7時頃から準備をしていたんだとか(現在は3時開店)。

「周りの銭湯の経営者の方達がいろいろと教えてくれたので、なんとかこれまで頑張ってこれました」。

 お風呂を見てみよう。浴槽は大小2つ。

 気泡風呂、スーパージェット、ミクロバス、ボディマッサージなどが設置された大きな浴槽では、毎日薬湯を実施。薬湯はその日の天気や気温を見て、入れる種類を決めるそうで、毎日何が入っているか楽しみにやってくるお客さんも多い。

 小さな浴槽のほうはさら湯で、こちらは備長炭が入れてある。

 ちなみに温度は薬湯のほうが42℃と少し高めになっている(小さいほうは40℃)。熱めのお湯が好きな人が多いため、大きな浴槽のほうを熱くしてあるそうだ。

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 開店時間に常連さんたちとともに浴室へ向かう。ジェットやバイブラが勢いよく噴出している浴室は、湯気に覆われ温かい。この日の薬湯の入浴剤は、赤みがかった漢方系の「薬宝湯」。42℃とそれほど熱くないのでじっくり長くつかっている人が多く、まるで湯治場のような風情だ。隣にぬるい浴槽も用意されているのが、家族連れにはうれしい。

 さて、お客さんは近所の常連さんをはじめ、新宿の繁華街も近いことから、夜遅く訪れる人も多い。それに新宿駅から近いこともあって、キャリーケースを転がしてくる旅行者も。欧米人の利用者がグループで来ることもある。「新宿から高速バスが出ているから、バスに乗る前後に来る人もいます。客層はバラエティ豊かですね」と繁靖さん。

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 ところで、坂本家の皆さんが特に力を入れているのが掃除。「高圧洗浄機も導入して、毎日一生懸命掃除しています。お客さんに"きれいだね"っていわれると本当にうれしいです。体をきれいにしにくるところが汚れてちゃ、しょうがないですからね(笑)」。最近は評判を聞きつけ、遠くから足を運んでくれる人も多いらしい。

 また、気持ちよく入浴してもらいたいと、挨拶もしっかりするように家族全員で心がけている。「お客さんと話をしてれば、ぼけないからいいわよね」と笑う、おばあさまの由子さんをはじめ、繁靖さんと由紀子さん夫婦に長男の寛幸ちゃん、叔父の宏一さんと、取材中も笑顔が耐えない坂本家の皆さん。経営者の笑顔に癒される人も多いことだろう。

 ところで、店の表にある梯子坂や裏手の久左衛門坂の名は、いずれも江戸時代から伝わっている由緒ある地名。また、近くにはやはり江戸時代に「苦難を切り抜く弁天様」として庶民の信仰を集めた抜弁天も祀られている。東宝湯に出かけた際はそんな歴史スポットにたたずんで、江戸の昔に思いを馳せてみるのもおもしろいかもしれない。
(写真・文:編集部)


【DATA】
東宝湯(新宿区)
●銭湯お遍路番号:新宿区 19番
●住所:新宿区新宿7-11-5
●TEL:03-3232-2641
●営業時間:15〜24時
●定休日:金曜
●交通:大江戸線「東新宿」駅下車、徒歩3分
●ホームページ:–
銭湯マップはこちら

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笑顔が絶えない坂本家の皆さん

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女性に人気のお釜型ドライヤー

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紫色の外装の美容院が目印。ビル脇の道路を抜けた先に入り口がある

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フロントでは、新宿区の銭湯PRキャラクター「ゆげじい」がお出迎え

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新宿区内の銭湯では、銭湯ごとに絵柄が異なる「ゆげじい」スタンプを使用