京急蒲田駅とその周辺は、線路の高架化にともなう再開発により、この数年でガラリと雰囲気が変わった。駅を西口に出ると、すぐ目の前にあった昭和の風情漂う商店街や飲み屋街は、高層マンション群へと変貌を遂げた。そんな真新しい一画を抜けて、落ち着いた住宅街の中にある「寿湯」を訪ねた。
「うちは売りになるものが湯船くらいしかないんです」と話すのは、ご主人の佐伯達哉さん。昔は東京の伝統的な宮造り型銭湯だったのを、’90年に改装する際に「何か珍しいものがほしい」というお母様のアイデアで丸い湯船を設置した。
通常、銭湯の湯船は壁際にあるものだが、こちらでは直径4mもある、大きな丸い湯船が浴室の真ん中にドンと据えられており、周りをカランが囲む珍しい浴室スタイルだ。
このスタイル、体を洗うときに背中側に人がいないので周りに気を使わず、広々と使えるということで長年好評だ。
さて、この丸い湯船だが、まるでホールケーキをカットしたように(?)区切られて、高温風呂、バイブラ、電気風呂、ジェットが噴き出す座風呂が設置されている。湯船の中心部にある島からお湯が湯船に注がれる造りも独特だ。
高温風呂につかってみると、なかなかの熱さ。夏は45℃、冬は46℃に設定しているとのこと。取材に訪れたのは1月。寒い季節の熱い湯は肌に染み入り、爪先がじんじんするほどだが、つかった後の満足感が心地よい。ほかの風呂はいずれも42度くらい。
「お湯の温度はどこのお風呂屋さんも悩みどころだと思うんだけど、以前試しにお湯を全体的にぬるくしてみたことがあったんです。そしたら物足りなかったのかな、お客さんが減っちゃった。それで元の熱めのお湯に戻したんです」と佐伯さん。常連さんには熱湯好きが多いようだ。
特筆すべきは電気風呂で、浴槽の奥へ寄りかかろうと思っても、しびれて足を進めることができない。電気風呂が好きな筆者でもたじろぐほど、パンチが効いた電気風呂だ。肩や背中の凝りがひどい人には効果大だろう。ちなみに併設されている遠赤外線サウナは無料なのがうれしい。
お客さんは、昔からの常連さんや高齢者が多い。「蒲田は昔、町工場が多くて、実際うちのお客さんにも町工場で働く職人さんが多かったんです。でも、いつの間にか町工場はすっかりなくなっちゃいましたね」。最近は羽田空港が近いことから、キャリーケースを引いた旅行者のお客さんも時折訪れることがあるという。「積極的な宣伝はしていないのですが、地方から出てきた方が空港を利用する前後に寄ってくれることも多いみたいです」。
ところで、佐伯さんの長男は、現在小学校3年生。後継者難といわれる銭湯業界だが、「息子は学校の作文で“将来はお風呂屋さんになりたい”と書いたんですよ」と、ご主人は目元をほころばせる。「毎日淡々とお湯を提供しているだけですけど、息子にうまくバトンタッチできたらいいですね。それまでは頑張ります」と話す。
再開発で装いも新たに生まれ変わった京急蒲田駅周辺だが、まだまだ昭和風情を感じさせる町並みも残る。ぶらり町歩きのあとは、寿湯でひとっ風呂どうぞ。
(写真・文:編集部)
【DATA】
寿湯(大田区|京急蒲田駅)
●銭湯お遍路番号:大田区 69番
●住所:大田区蒲田3-8-6
●TEL:03-3735-9400
●営業時間:15時半〜23時45分
●定休日:月曜
●交通:京浜急行線「京急蒲田」駅下車(西口)、徒歩5分
●ホームページ:http://ota1010.com/explore/%E5%AF%BF%E6%B9%AF/
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