有楽町線・副都心線が乗り入れ、都心へのアクセスが便利な氷川台駅から徒歩2分。この地で昭和33年から銭湯を営む「川場湯」を訪ねた。「開店した昭和33年当時、店の周りはキャベツ畑が広がっていて、遠く離れた西武池袋線が見通せた、とおばあちゃんから聞いています」と話すのは、ご主人の津野和俊さん。昭和56年に現在のビル型銭湯に改築し、平成22年に全面リニューアルを行い現在の形になった。ビル型銭湯ながら初代ご主人のこだわりで、脱衣場、浴室とも宮造り銭湯並みに天井が高く、開放感があふれる。
改装時には家族総出でプランを出し合い、タイルや目地の色まで決めたという。女湯はピンク、男湯はグリーンのタイル。いずれもパステル調のやわらかい色合いの落ち着いた雰囲気で、センスのよさを感じる。改装時の模様は川場湯のブログに記録が残っているので、現在の姿と比べてみるのもおもしろいかもしれない。
さて、その改装時に導入したのが、高濃度炭酸泉だ。現在はブームといえるほど設置する銭湯が増えているが、川場湯が設置した時は都内でもまだ数軒のみ。改装時に何か目玉となるものをといろいろ探した結果、見つけたのが高濃度炭酸泉だった。
「血流促進効果があるので体がよく温まるし、スポーツ後の疲労回復にも効果があるそうです。冷え性の方には特におススメです」。お湯につけた部分とそうでない部分を比べると、肌の色がくっきり分かれるので効果のほどがよくわかる。お湯は40度以下とぬるめなので長い時間つかることができ、体の芯までしっかり温まってくるのが実感できるはず。繰り返し入るお客さんのために、脱衣場には飲料を入れる保冷ボックスも用意してあるのがうれしい。
そのほか、ジェットとバイブラを設置した大浴槽、岩が組まれた露天風呂も設置。露天風呂は「ユッカ濁り湯」という薬湯を通年実施しており、温泉気分が味わえる。
さて、名物の炭酸泉にちなんで、川場湯がもう一つ提供しているサービスが「炭酸シャンプー」。お店から提供される炭酸水入りのボトルに自分のシャンプーを混ぜて使うのだが、汚れがよく落ち、髪の毛がサラサラになると好評。女性限定で平日午後8時以降のサービスだ。「仕事で疲れた若い女性に、手ぶらで立ち寄ってほっこりしてもらいたい」と、化粧水や洗顔フォーム、コットンなども提供している。
充実した設備とサービスだが、どの家にも風呂がある時代ゆえに、銭湯の存在を積極的にPRしていかないといけないということで、駅前で店名入りのティッシュやうちわを配るなどの取り組みも行っている。「昔みたいにアパートへお客さんを連れて行った不動産屋さんが、肉屋、魚屋、風呂屋の場所を教える時代じゃないですから。銭湯の存在を目に触れる形でPRしていかないと」。そのほかネットでもブログは奥様、Twitterはご主人担当で情報発信に取り組む。
ところで津野さんご夫婦には3人のお子さんがいる。「子ども達は、若い人ならではのアイデアをいろいろ提供してくれます。フロントや掃除も手伝ってくれるし、助かっています」(奥様)。
お子さん達のアイデアが活かされている例が、オリジナルキャラクターだ。娘さんが考えたアイデアを、絵が好きな息子さんがイラスト化したもので「お風呂の妖精 かわばりーぬ」という。フロントではいろいろな所に、かわばりーぬの姿が見られるので探してみよう。かわばりーぬが描かれたTシャツやカバンの販売も行っている。
お客さんは、周辺に大学が多いことから学生も多く、土日は家族連れが増える。ぬるめの炭酸泉があるから家族連れでも安心だ。石神井川沿いの歩道を走るランナーも時折訪れるとか。
「お客様が安心して心地よくご利用できる、清潔感のある空間を作れるよう日々努力しています」とご主人が話すとおり、川場湯は掃除には特にこだわっている。定休日でも普段できないところを掃除しているのでなかなか遠出することはできない。そんな生活の中、最近の楽しみは3人のお子さんが皆成人したので、定休日に家族で居酒屋に出かけることなんだとか。
川場湯の湯につかるとほっこりした気分になるのは、お風呂の妖精「かわばりーぬ」の魔法のせい? いやいや仲のいい家族が一丸となって営む、その懸命さが利用者にも伝わってくるからだろう。
(写真・文:編集部)
【DATA】
川場湯(練馬区|氷川台駅)
●銭湯お遍路番号:練馬区 15番
●住所:練馬区桜台3-15-14
●TEL:03-3991-7381
●営業時間:15〜24時
●定休日:月曜
●交通:東京メトロ有楽町線「氷川台」駅下車、徒歩2分
●ホームページ:http://kawabayu.asablo.jp/blog/
●ツイッター:https://twitter.com/kawabayu
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