企画・構成=目崎敬三(銭湯ライター)
対談場所:ひだまりの泉 萩の湯(台東区根岸)
「せんべろ」をご存じですか? 「千円でべろべろ」の略で、お酒を安く気軽に飲むスタイルのこと。イラストレーターのラジカル鈴木さんとメソポ田宮文明さんが提案するのは、銭湯料金480円に、湯上がりのお酒を加えて千円以内に収める「せんべろ銭湯」のすすめです。実は東京都内にも安くておいしいお酒を出す銭湯が数多くあるんです。今回はこのお二人が湯上がりの「最高の一杯」をご案内します。
※文中に登場する価格は対談時のものです。なお、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策などに伴い、営業時間やメニューなどが通常と異なっていたり、アルコール類の販売が中止されている場合があります。ご利用の際は、あらかじめご確認ください。
ラジカル鈴木さん(左)、メソポ田宮文明さん
PART1. ラジカル鈴木おすすめのせんべろ銭湯
「入浴料金プラス、湯上がりの一杯」を千円以内で楽しむ
ラジカル鈴木(以下ラジカル) お酒がおいしい季節になりました。今回は「銭湯で湯上がりに飲むお酒」について、前回(東西イラストレーター対決! 熱烈銭湯ファンによる「東京銭湯」激アツ対談のように、僕が東京の西側、メソポさんが東側で、それぞれお酒が飲めるおすすめ銭湯を紹介していきましょう。自慢じゃないけど僕、呑んベえなんです。メソポさんもお好きですよね?
メソポ田宮文明(以下メソポ) はい。大好きです(笑)。
ラジカル 「せんべろ銭湯」のすすめということで、入浴代480円プラス1〜2杯で千円以内の予算としましょう。「せんべろ」というのは作家の中島らもさんが広めた言葉で「千円でべろべろになるほど飲める店」という意味です(『せんべろ探偵が行く』中島らも・小堀純「集英社文庫」より)が、僕らは入浴料も込みで楽しんじゃおうと。
メソポ 風呂上がりは血の巡りもいいから、一杯でもけっこう酔えますよね〜。さらにもっと飲みたいなら、銭湯を出て、近くの居酒屋で腰を落ち着けて飲んだほうがいいですけどね。
ラジカル 銭湯の中の「軽く一杯」に今回はフォーカスです。じゃあ、僕から東京の西側で選んだ銭湯を6軒紹介します。
まずは南青山 清水湯(港区南青山)さん。青山のおしゃれ銭湯として有名です。480円の入浴券と同じく、飲食物もチケットを自販機で買います。390円の生ビールに160円のおつまみを付けて、合計1,020円でほぼ千円。でも、ここのホントのおすすめは、本格的なベルギービールで、例えばヒューガルテンホワイトと、ステラ・アルトワは800円、モルトガットデュベルと、オルグァルは1,000円……あっ、それじゃあ一杯だけでいきなり千円を超えちゃいますね(笑)。
メソポ お店でもベルギービールの相場はそんなものですよね。
ラジカル まあ、たのんじゃったときは、二千べろってことで!?(笑)。
南青山 清水湯(港区南青山)
次は、東京浴場(品川区小山)さん。こちらは2020年7月にリニューアルされましたが、クラフトビールの生を一杯500円で飲めます。入浴料と合わせてほぼせんべろ。スタッフが丁寧に注いでくれるので、泡までおいしいです。クラフトビールは4種あって、「クラフトビール飲みくらべ4種類セット980円」でテイスティングして、好きなのを選んでからでもいいですねえ。せんべろ予算はまたまたオーバーしちゃいますけど(笑)。
メソポ ここの電話ボックスのような”おひとりさまサウナ”もユニークですね。サウナ後の一杯も、至福ですよね〜。
ラジカル 休息所にはアナログのプレイヤーがあって、ボサノバなんかが流れてて、いい雰囲気なんですよ、まったり、じっくり、湯上がりのお酒を味わえます。
メソポ 代表は、マンガがたくさん置いてある昭島市・富士見湯さんと同じ方(真神友太郎さん)なんですが、同様にマンガがいっぱいあって、子供や若い人たちが黙々と読みふけってます。店長さんやスタッフも若く、新しいアイデアを次々にカタチにされていて、これからも楽しみです。
ラジカル 子供から大人まで楽しめて、素晴らしい空間ですよね〜。
東京浴場(品川区小山)
三軒目はちょっと南下して、天神湯(太田区南蒲田)さん。熱い湯から水風呂まで、バラエティ豊かな入り心地最高のお風呂を堪能したあとは、休息所とは別に軽食の部屋があるので、そこがお楽しみ。食券を買って、厨房のカウンターの、気のいいおばちゃんに渡します。
メソポ なんだか家庭的でほのぼのしますねえ。
ラジカル 生ビール中ジョッキ450円にグラス350円、瓶ビール350円と選べて、その他ハイサワー300円などもあります。おつまみも枝豆、おでん、湯豆腐、冷奴が各200円。焼き鳥3本300円など、いろいろ。
メソポ せんべろの組み合わせが豊富ですね〜。
ラジカル ただ、お食事は休日のみの営業なので、要注意です。週末にいただきにあがりましょう。
メソポ ちなみにラジカルさんのおすすめメニューは?
ラジカル カレーライス(450円)です。小麦粉多めの懐かしい味で、湯上がりに食べるとおいしさが倍増します。せんべろ的には、ビールをとるかカレーをとるか、ですが(笑)。
天神湯(大田区南蒲田)
黒湯に入った後、広間でのんびりと
四軒目は、アクアガーデン三越湯(港区白金)さん。白金のおしゃれな北里研究所通り商店街にあって、店構え、入り口の雰囲気はちょっとした旅館か料亭のようです。浴室も足湯があったり、男女週替わりの広い露天風呂があったり、温泉施設の気分を味わえます。肝心の飲み処ですが、入り口からフロントまでのスペースに旧建物の梁を再利用した厚さ20cmの立派な檜のカウンターがあって、これが圧巻!
メソポ 高級感ありますね。バーみたいな?
ラジカル まさに。ご主人がバーテンダーのようにカウンターに入って「生ですね?」って、サーバから丁寧にグラスに注いでくれます。僕が一番好きなアサヒ・スーパードライ、風呂上がりはコクよりもキレでしょ!(笑)。 柿ピーが付いて500円。高級なお店の雰囲気でも、ちゃんとせんべろ(笑)。 日頃の不平不満もご主人が聞いてくれちゃったりなんかして。
メソポ どんな愚痴を?
ラジカル ちょっとシャレになんないので、それは内緒です(苦笑)。でも、風呂上がりに旨いビール飲んだらイヤなことみんな忘れちゃいますよ〜!(笑)。
※三越湯では2021年10月現在、カウンターでのビールをはじめとした飲み物の提供は休止しています。
アクアガーデン三越湯(港区白金)
五軒目です。北上して、貫井浴場(練馬区貫井)さん。ここは露天やバイブラ風呂など銭湯としてのスペックがとても高いのに加えて、カウンター(番台)の横を入ると広いお座敷の飲食スペースがあって、豊富なメニューは、そのまんま定食居酒屋です。
メソポ 私も行ったことがあります。飲食のみの利用も可なので、独立したお店といってもいいですよね。
ラジカル 食券は入浴の受付と同じカウンターで買い、厨房の窓口に出します。この独特のシステム、僕は他で見たことがありません。生ビール550円、瓶ビール500円、ホッピーセット400円は柿ピー付き。おつまみも200円から、唐揚げ、カキフライ、おでん、肉じゃが、ねぎとろ、フライドポテト、枝豆、たこ焼、と、めっちゃ豊富。
メソポ 本物の居酒屋ですね、せんべろでまとめることもできるけど、誘惑が多すぎます(笑)。じっくり腰を据えたくなっちゃいますね〜。
貫井浴場(練馬区貫井)
ラジカル 六軒目は、また大田区ですが、ヌーランド さがみゆ(太田区仲六郷)さんです。黒湯の銭湯が多いエリアですが、ここもそう。そもそも建物の大きさが健康ランド並で、2階におそらく銭湯では最大級、圧巻の広さの大宴会場があります!
ヌーランド さがみゆ(大田区仲六郷)
メソポ 大人数で行くと盛り上がりそうですね。
ラジカル もちろんポツンと1人で行っても、そのまん中でぜいたくに飲食ができます(笑)。生ビール小400円、中500円、大720円、瓶500円ほか、日本酒、ハイボール、水割り、チューハイ、サワー、焼酎、ウィスキー、ワイン、とほぼなんでもある。おつまみは焼き鳥1本110円から。枝豆、冷や奴、しらすおろし……せんべろの組み合わせは無限大。メニューがあり過ぎてチョイスが難しいかもしれません(笑)。にんにく揚げがあるのは、個人的にアガります。ご存知のように僕は”にんにく大使”もやってますから(笑)。
メソポ にんにくは最高ですよねえ、今度食べます〜。
ラジカル 黒湯のあと大広間でのんびりと。入浴料、ビールとにんにく揚げでちょうど千円くらい。まさに極楽ですよ〜〜。
(part2へ続く)
ラジカル鈴木(らじかる・すずき)
イラストレーター、文筆家。銭湯愛好家、にんにく愛食家。
年間300日銭湯に通う。2021年6月末現在、都内銭湯は、今は無き店舗も含め287軒訪湯。遅れて始めた銭湯お遍路帳は三冊目最後のページ。全国では350湯以上来湯。2018年銭湯とプリンスを融合させた個展「LOVESEXY風呂」をみどり湯(目黒区緑が丘) 押上温泉 大黒湯(墨田区横川)で開催。同年、gallery yururiにて関連トークイベントを開催。 散歩の達人、日刊ゲンダイ、日刊大衆、等で銭湯に関する執筆、絵付きの取材、放送出演も多数。
名画座探訪
ラジカル鈴木 公式サイト
メソポ田宮文明(めそぽたみや・ぶんめい)
イラストレーターを中心とした自由業者。日本漫画家協会会員。
『銭湯もりあげた~い』隊員で公式キャラ『お湯わいてるぞう』作者。
銭湯好きが高じて、近年では薬師湯(墨田区向島)・ひだまりの泉 萩の湯(台東区根岸)・寿湯(台東区東上野)で3銭湯浴室限定漫画『銭湯戦士 セイント☆セントー』連載、2018年、台東区浴場組合タオルデザインを担当。
玉の湯(足立区綾瀬)のれん・浴室デコレーション、寺島浴場(墨田区東向島)Tシャツ・トートバッグのデザインなども手がける。
昭和レトロ系webサイト『ゴールデン横丁』で銭湯関連エッセイを連載中。