「山の手はおしゃれ、下町は庶民的」はもう古い? 進化する東京銭湯について、熱烈銭湯ファンであるイラストレーター二人が激アツ対談! 東京の東側のおすすめ銭湯を紹介するのは浴室限定漫画『銭湯戦士 セイント☆セントー』や「銭湯もりあげた~い」公式キャラ「お湯わいてるぞう」の作者として知られるメソポ田宮文明さん。西側のおすすめ銭湯を紹介するのは銭湯とプリンスを融合させた個展「LOVESEXY風呂」を開催したり、雑誌や新聞で銭湯に関する執筆を行ってきているラジカル鈴木さん。銭湯通の二人がおすすめする銭湯とは!?

企画・構成=目崎敬三(銭湯ライター)
対談場所:岡田湯(足立区関原)

ラジカル鈴木さん(左)、メソポ田宮文明さん


熱烈銭湯ファンによる「東京銭湯」激アツ対談(その1)はこちら

 

2.自慢の脱衣場で選ぶ、東西おすすめ銭湯

ラジカル鈴木 それでは銭湯の外観にグッときたところから、いよいよ中に入っていきましょうか(笑)。次は脱衣場についてです。じゃあ今度はメソポさんから東側の銭湯で、おすすめの脱衣場の3軒を挙げていただけますか?

メソポ 殿上(でんじょう)湯(北区西ケ原)、照の湯(江戸川区南小岩)、帝国湯(荒川区東日暮里)、の3軒です。殿上湯さんの脱衣場は天井が高く独特な装飾もあり、まるでお寺で服を脱いでいるような感じです。

ラジカル まさに“殿上(てんじょう)”という名前の通りの天井が特徴なんですね。行ってみたいなあ。(※殿上湯の読みは「でんじょうゆ」)

殿上湯(北区西ケ原)

 

メソポ 照の湯さんはもともと相撲部屋だった場所に建てられた銭湯です。だから通常のレトロ銭湯とは造りが少し違うところも。昔は力士が稽古していたところで服を脱ぐというのは面白いんじゃないでしょうか。あと、資生堂とかの昔の広告の看板がいまだに残っているのもレトロでいいかと。

ラジカル それはタマリマセンね~。

照の湯(江戸川区南小岩)

 

メソポ 帝国湯さんは長い歴史をうっとりするほど感じさせてくれて、落ち着くんです。いい意味で“時が止まっている”ような気分になるんですよ。タイムトリップ感を最も味わえる脱衣場と言ってもいいんじゃないでしょうか。ちなみに脱衣場での“殿堂入り”はタカラ湯さん(足立区北千住)です。脱衣場から見える縁側が素晴らしい。あと、脱衣場に私がイラストデコレーションをさせてもらっている玉の湯さん(足立区綾瀬)も僭越ながらオススメです(笑)

帝国湯(荒川区東日暮里)

 

ラジカル タカラ湯さんは誰もが認める「キング・オブ・縁側」ですよね。じゃあ、僕からも西側の銭湯3軒を。富士見湯(世田谷区太子堂)、仙石湯(渋谷区西原)、中延記念湯(品川区旗の台)です。

富士見湯さんの脱衣場はほぼ正方形のちょうどいい広さで、脱衣場にテレビが置いてあるところはあまりないと思いますが(脱衣場が休息所と分かれている場合)、ここは自由にチャンネルを変えられるテレビがあります。それから足で漕ぐタイプと両足で交互に踏むタイプの健康マシーンが2台。やっている人はほとんど見たことがないんですが(笑)。

メソポ いい味が出ていると思いますね。

富士見湯(世田谷区太子堂)

 

ラジカル 仙石湯さんの脱衣場はコンパクトですが、非常に落ち着けるんです。清掃が行き届いていて、床がほんとにツルッツル。アート系の雑誌が充実していて、冷たい物を飲みながら読み込んじゃって、いつも思わず長居しちゃうんです。TVは無くて静かですね。あと、浴室に持ち込んでいい子供用のオモチャがあって、それもポイント高いですね。渋谷区の親子ふれあい入浴デーに息子と何度も来ましたよ。

仙石湯(渋谷区西原)

 

中延記念湯さんの脱衣場は、カマボコの形の吹き抜けの天井が高くて広々しているんですが、メインの浴室から後付けで作ったと思われる露天風呂へ行くために、脱衣場を濡れた体で移動するんです。その経路には、緑色のマットが敷かれているのが珍しいので、今回選びました(笑)。

メソポ 中延記念湯さんは私も行ったことがあります。あと、ここにも子供用の遊具が置いてありますよね。

ラジカル はい、子供が乗って遊べるやつが二つありましたね。脱衣場がにぎやかな集いの場になってます。

中延記念湯(品川区旗の台)

 

3.お湯の質で選ぶ、東西おすすめ銭湯

では、いよいよお風呂の中に入りましょうということで、お湯の質について。メソポさんのお気に入りの3軒をお願いします。

メソポ 天然温泉 湯どんぶり栄湯(台東区日本堤)、妙法湯(豊島区西池袋)、若松湯(足立区中央本町)の3軒です。

湯どんぶり栄湯さんですが、リニューアルされたばかりなんです(2020年10月)。超高濃度炭酸泉が新設されまして、医療機関で使用されている炭酸泉の機械だそうで、体につく炭酸の泡つぶも「超」という名にふさわしいものでしたよ。浴槽に麦飯石を使っていて、それほど温度は高くないのにしっかり温まるんです。また露天エリアに「美泡水風呂」という名称で水風呂が新設されて、下から泡が出てくる仕組みになっていて驚きましたね。

ラジカル ほう! それは近いうちにぜひ入ってみたいですね~!

湯どんぶり栄湯(台東区日本堤)の「美泡水風呂」

 

メソポ 妙法湯さんも2019年3月にリニューアルして、軟水・炭酸泉・シルキー風呂やミクロンバイブラ風呂などバラエティに富んでいます。お湯は「軟水マイクロバブル水」を使用し、とても水にこだわっている印象がありますね。好きな銭湯なので、東側に入れさせていただきました(笑)。

妙法湯(豊島区西池袋)

 

若松湯さんも軟水のお風呂です。“美肌軟水”と看板にもうたっていて、私が衝撃をうけた高純度軟水銭湯のひとつです。ちなみに日本で最初に軟水を取り入れたのは小岩の友の湯さん(江戸川区東小岩)だそうで、こちらが私のお湯における“殿堂入り” でございます。

若松湯(足立区中央本町)

 

ラジカル なるほど~、やっぱり軟水風呂が殿堂入りなんですね。僕のオススメのお湯の銭湯も、1軒は軟水が自慢でして。こりゃ、入り比べをしなきゃいけませんね!

僕のオススメはピース湯(品川区西大井)、麻布黒美水温泉 竹の湯(港区南麻布)、駒の湯(世田谷三軒茶屋)です。

ピース湯さんは僕の中での軟水の質、ナンバーワンのお風呂です。軟水を作るために高価で大規模な装置を導入していて、カランを含めて全部軟水で、もう、全然違うんです。ホントにヌルッヌルなんですよ~。もしかしてシャンプーの泡が落ちてないんじゃないかと思うくらいに(笑)。湯舟の中も凄いんですよ~。

メソポ 浸かった後は、お肌にしっとり感が残りますよね。

ピース湯(品川区西大井)

 

ラジカル 竹の湯さんは、お湯の表面から1センチ下が見えないほど黒々として本当に濃い黒湯で有名ですが、特に好きなのは水風呂です。汲み上げたままの17度の黒湯のかけ流しというのが珍しくて最高です~。黒湯に浸かってそのまま流さずに上がると、渇いた後のお肌はサラサラ、ツルッツル、そして長い間ポカポカと暖かいですね。

麻布黒美水温泉 竹の湯(港区南麻布)の水風呂

 

駒の湯さんは、キンキンに冷えた広めの水風呂に定評がありますが、それと42度くらいの主浴槽の温度差が抜群なんです。交互に4セットくらい入るのが僕の定番になってます。いわゆる、「整う」ワケで、僕の中では”整い指数”120%の銭湯。リンパの流れ、自律神経、今日もヨシ! と(笑)。

駒の湯(世田谷三軒茶屋)

 

メソポ 最近は「交互浴」が健康に良いと言われ、実践している人も多いですね。だけど、いいお湯でも気を付けることがあります。長く入りすぎて、のぼせないように注意が必要ですね。

(その3へ続く) ※その3は12月7日公開予定です。

その1はこちら


ラジカル鈴木(らじかる・すずき)

イラストレーター、文筆家。銭湯愛好家、にんにく愛食家。
年間300日銭湯に通う。2020年10月末現在、都内銭湯は、無き店舗も含め282軒来湯。
遅れて始めた銭湯お遍路帳は三冊目最後のページ。全国では350湯以上来湯。
2018年銭湯とプリンスを融合させた個展「LOVESEXY風呂」みどり湯(目黒区緑が丘) 押上温泉 大黒湯(墨田区横川)で開催。同年、gallery yururiにて関連トークイベントを開催。
散歩の達人、日刊ゲンダイ、日刊大衆、等で銭湯に関する執筆、絵付きの取材、放送出演も多数。 
名画座探訪
ラジカル鈴木 公式サイト

 

メソポ田宮文明(めそぽたみや・ぶんめい)

イラストレーターを中心とした自由業者。日本漫画家協会会員。
『銭湯もりあげた~い』隊員で公式キャラ『お湯わいてるぞう』作者。
銭湯好きが高じて、近年では薬師湯(墨田区向島)・ひだまりの泉 萩の湯(台東区根岸)・寿湯(台東区東上野)で3銭湯浴室限定漫画『銭湯戦士 セイント☆セントー』連載、2018年、台東区浴場組合タオルデザインを担当。
玉の湯(足立区綾瀬)のれん・浴室デコレーション、寺島浴場(墨田区東向島)Tシャツ・トートバッグのデザインなども手がける。
昭和レトロ系webサイト『ゴールデン横丁』で銭湯関連エッセイを連載中。