「山の手はおしゃれ、下町は庶民的」はもう古い? 進化する東京銭湯について、熱烈銭湯ファンであるイラストレーター二人が激アツ対談! 東京の東側のおすすめ銭湯を紹介するのは浴室限定漫画『銭湯戦士 セイント☆セントー』や「銭湯もりあげた~い」公式キャラ「お湯わいてるぞう」の作者として知られるメソポ田宮文明さん。西側のおすすめ銭湯を紹介するのは銭湯とプリンスを融合させた個展「LOVESEXY風呂」を開催したり、雑誌や新聞で銭湯に関する執筆を行ってきているラジカル鈴木さん。銭湯通の二人がおすすめする銭湯とは!?
企画・構成=目崎敬三(銭湯ライター)
対談場所:岡田湯(足立区関原)
ラジカル鈴木さん(左)、メソポ田宮文明さん
1.建物の情感で選ぶ、東西おすすめ銭湯
ラジカル鈴木(以下ラジカル) メソポさんとは以前銭湯サポーターフォーラムでお会いしましたが、きちんとお話しするのは初めてですね。今回は、お互いによく行く都内の銭湯から4つのポイントごとに、お気に入りを選びたいと思います。僕は渋谷に住んでいるので、東京の西側担当です。僕が本当に好きで、あえて、あまり紹介されていない銭湯を選びました。
メソポ田宮文明(以下メソポ) 私も有名どころは“殿堂入り”にして、それとは別に選んできました。葛飾に住んでいるので、東京の東側にあって、今こそ紹介したい銭湯を取り上げたいと思います。
ラジカル 僕はやっぱり渋谷の銭湯を中心に、自転車を使って行くことが多いのですが、だんだん目黒、港、世田谷、中野、品川などの遠方まで行っちゃうようになって。自転車は健康にいいし、終電も気にしないでいいので便利ですね。
メソポ 通常、仕事場から直行する銭湯は、交通費をかけずに自転車を利用し、葛飾から足立、墨田、荒川、台東、江戸川区あたりへ。最近は北区や江東区の端っこにも行けるようになりました。今回は、お互いが自転車では行けない、東京の「遠くの東西銭湯情報」をぜひ交換できればと思っています。
ラジカル それぞれのお気に入り銭湯を、4つのポイントに分けて紹介しましょう。1.外から見た建物の情感 2.脱衣場の雰囲気 3.お湯の質 4.休息所の雰囲気、です。
メソポ なるほど。銭湯に入るときの順番ですね。建物を見る、服を脱ぐ、お風呂に入る、出てくつろぐ、といった流れで。
ラジカル そうです。対談しながら銭湯に入っている気分になれるでしょ(笑)。ではまず僕から、外観がお気に入りの西側の3軒を挙げます。大盛湯(品川区二葉)、千代の湯(世田谷区三軒茶屋)、よろづ湯(武蔵野市吉祥寺本町)です。
大盛湯さんは、入り口に立った時から圧倒される、威風堂々とした宮造り。カーブが立派な唐破風で、その中に懸魚(げぎょ)という複雑な木彫りがあって、3羽の鶴が舞っているおめでたいデザインという建物は、一級の芸術品です。西側にもまだまだこんな国宝級の建物が残っているんです!
大盛湯(品川区二葉)
メソポ 写真で見ると、まるで神社仏閣のようですね。
ラジカル 千代の湯さんは、トタンで囲まれ、全貌をはっきりと見ることができないのが凄い(笑)。三軒茶屋の国道246号と世田谷通りの三角地帯の飲み屋街にあって、迷路のようになかなか入り口がわからない。一方の246号側の入り口は、駐車場の砂利を歩いて横切ったところだったり。都会のまん中なのに、タイムスリップ感がたまりません。
千代の湯(世田谷区三軒茶屋) 国道246号側から見たところ
3軒目のよろづ湯さんは、年期の入ったごくごく普通の造りの実用的銭湯なんですが、なんとも言えぬ味があるんですよね~。JR吉祥寺駅のすぐそばにあるんですが隣接する再開発のビル群と、繁華街の中にあるため夜になると賑やかなネオンに囲まれ、そのギャップがひときわ幻想的なんです。
よろづ湯(武蔵野市吉祥寺本町)
メソポ ラジカルさんが挙げた西側の3軒ですが、いずれも都会の中にこんな銭湯があるのか、という意外性が共通してとても面白いです。では今度は私が東側の3軒を。
まずは日暮里 斉藤湯(荒川区東日暮里)さん。2015年に全面改築リニューアルをしたのですが、ビルの中に入っているマンション銭湯なのに、日大芸術学部を出たご主人のこだわりも感じさせる、暖かみのある店構えになっています。
ラジカル 「斉藤湯」と書いてある入り口の木の看板がとても風情があります。あの大きな看板は目立ちますよね。
日暮里 斉藤湯(荒川区東日暮里)
メソポ 大門湯(荒川区東尾久)さんは、都電の駅から続く細い路地の奥という、のどかなところにあるんです。決して大きくはない、昭和25(1950)年に建てられたという宮造り銭湯ですが、最初に自転車で行ったときは、煙突が見えた時点から感動しました。
大門湯(荒川区東尾久)
曙湯(台東区浅草)さんは、浅草寺の裏側あたりにあります。ここも立派な宮造りなんですが、藤棚が玄関の上にあって、花の見ごろは4~5月です。夜もライトアップされていて綺麗なんですよ。寒い冬の夜、自転車で通りかかったときに、曙湯さんの佇まいを見てシビレたことがあります。こちらは銭湯ファンには有名ですが、SNSでの発信を見かけないので知らない方もいるかとも思い、挙げさせていただきました。
ラジカル 曙湯を訪れたときの、藤棚の記憶は僕もありますね。浅草といえば、歴史ある銭湯だった蛇骨湯が閉店(2019年5月)したのが、とても残念ですね~。
曙湯(台東区浅草)
メソポ 東京の東側というか、下町の銭湯の建物にはやはり伝統を感じます。いま上げた3つの銭湯以外にも建物の風情がある銭湯としては稲荷湯(北区滝野川)、燕湯(台東区上野)、大黒湯(足立区北千住)、タカラ湯(足立区北千住)、鶴の湯(江戸川区小岩)、帝国湯(荒川区東日暮里)などがありますが、これらの銭湯は私の中ではもはや“殿堂入り”ですね。
ラジカル 殿堂入りがいっぱい(笑)。さすが歴史ある東京の東側という感じですね。僕も一度は巡ったことのある銭湯ばかりですが、お話を聞いているとまた行きたくなっちゃう。
メソポ ビル型の銭湯でも街の中に溶け込んでいたり、独特の存在感がある風景もまたいいものですよね。だから、歴史があればいい銭湯だというものでもないと、私は思います。
(その2はこちら)
ラジカル鈴木(らじかる・すずき)
イラストレーター、文筆家。銭湯愛好家、にんにく愛食家。
年間300日銭湯に通う。2020年10月末現在、都内銭湯は、無き店舗も含め282軒来湯。
遅れて始めた銭湯お遍路帳は三冊目最後のページ。全国では350湯以上来湯。
2018年銭湯とプリンスを融合させた個展「LOVESEXY風呂」をみどり湯(目黒区緑が丘) 押上温泉 大黒湯(墨田区横川)で開催。同年、gallery yururiにて関連トークイベントを開催。
散歩の達人、日刊ゲンダイ、日刊大衆、等で銭湯に関する執筆、絵付きの取材、放送出演も多数。
名画座探訪
ラジカル鈴木 公式サイト
メソポ田宮文明(めそぽたみや・ぶんめい)
イラストレーターを中心とした自由業者。日本漫画家協会会員。
『銭湯もりあげた~い』隊員で公式キャラ『お湯わいてるぞう』作者。
銭湯好きが高じて、近年では薬師湯(墨田区向島)・ひだまりの泉 萩の湯(台東区根岸)・寿湯(台東区東上野)で3銭湯浴室限定漫画『銭湯戦士 セイント☆セントー』連載、2018年、台東区浴場組合タオルデザインを担当。
玉の湯(足立区綾瀬)のれん・浴室デコレーション、寺島浴場(墨田区東向島)Tシャツ・トートバッグのデザインなども手がける。
昭和レトロ系webサイト『ゴールデン横丁』で銭湯関連エッセイを連載中。