JRの駅としては東京23区の最北端に位置するのが埼京線の浮間舟渡(うきまふなど)駅だ。珍しい駅名だなと思い調べてみると、駅が北区浮間と板橋区船渡にまたがっていることから「浮間舟渡」と名付けられたことがわかった。
「浮間」も「船渡」も川を連想させるが、それもそのはず、現在駅がある場所はもともと荒川が流れており、明治末から昭和初期にかけて行われた河川改修工事により陸地になったそう。ちなみに工事前の荒川は流路が蛇行していて、その名の通り古くから「荒ぶる川」としてたびたび水害を起こしていた。それを前述の工事によりゆるやかな流路に改修してできたのが現在の荒川だ。
さて、そんな浮間舟渡駅から住宅街を歩くこと約7分で本日の目的地「露天風呂 ゆの花」へ到着。ビルのてっぺんに据えられた看板が遠くからでもよく見えるのがありがたい。
交差点のすぐそばにあるビル銭湯ながら、入り口には昔の銭湯を思わせる、お寺のような千鳥破風が付いているところが特徴的だ。
店内のフロントは木の質感を活かし、格子状の照明など工夫を凝らした造りになっている。店主の飯島栄樹さんによれば「この店を建てた祖父が凝り性で、いろいろ工夫した造りになっています」とのこと。フロントの上部に屋号が刻まれているのも、珍しい。
脱衣場に入ると浴室とのガラス越しに、壮大なタイル絵が見えた。男湯のタイルは栃木県日光市の「竜頭の滝」をモチーフにしたのもので、筆者は行ったことはないが迫力のある滝に圧倒されてしまう。側面のタイルは稜線を思わせる模様が浴室に彩りを添えている。ちなみに女湯のタイル絵は、山口県岩国市の「錦帯橋」だ。
浴室に足を踏み入れると少し驚いた。銭湯の浴室の床といえば、通常はタイルであるがこちらの床は白っぽい石が敷かれている。これは白大理石で、冬場でもお客さんの足元が冷たくないようにという配慮で採用したそう。
開店直後の男湯の浴室はそれほど混み合っておらず、常連さんたちの挨拶が時折行き交う程度だが、なかには浴槽で話し込んでいる人たちもいて、地域の社交場になっていることがよくわかる。
浴室の奥には薬湯、ミクロバイブラ、電気風呂、ボディマッサージ、ハイパワージェットが並んでいるので順番につかる。約10種類の薬湯が日替わりで提供される薬湯は、浴槽が深くて肩までしっかりつかることができる。この日の薬湯は「ふくじゅこう」。漢方の香りが漂い心地良い。
電気風呂は電流のパターンが定期的に変わるタイプで、「おす」「もむ」「たたく」が順番に切り替わる。パターンにあわせて筋肉の動きが変わるのが面白い。ハイパワージェットとボディマッサージはジェットの勢いが強く、特にボディーマッサージはたくさんの人に背中を揉まれている? と錯覚するほど強力だ。
さて、この銭湯は都内でも唯一「露天風呂」を屋号にしていることからもわかるように、最大のウリは露天風呂。薬湯の脇の扉を出て石畳の通路を進むと、その先には別世界が広がる。竹垣や瓦屋根で囲まれた空間に風情ある東屋があり、その下に大きめの岩風呂が設けられている。お湯は温泉の湯の花を使った再生温泉で、まるで地方の湯治場を思わせる雰囲気だ。旅気分を盛り上げてくれる小ぶりな灯籠やほの明るい照明など、なんとも手の込んだ造りで、この空間を屋号に取り入れた先々代の経営者の気持ちがよくわかる。
住宅地ゆえに空がよく見えるという訳にはいかないが、それでも外気に触れながらの入浴は格別の気分だ。白濁しているお湯に体を沈めると、柔らかな湯が肌を包み込み、心までほぐされていく。冬の冷たい空気と湯けむりのコントラストも風情がある。お湯の温度が高くないので、のんびり入れるのもうれしい。温かい湯につかりながら、静寂の中に身を委ねていると、ここが東京であることを忘れてしまいそうになる。露天スペースにはベンチがあるので、体を冷ましながらくつろぐのもよいだろう。
筆者が入ったのはまだ明るい時間だったが、日が落ちた後ならば、ほのかな灯りが照らす露天風呂は、昼間とはまた違った趣を見せるはず。今度はぜひ夜間に再訪しようと思いつつ、店をあとにした。
入り口から浴室まで、いたるところに凝った造りが見られるのが印象的な「露天風呂 ゆの花」。風情ある露天風呂で、旅行気分を楽しんでみては。
(写真・文:編集部)
【DATA】
露天風呂 ゆの花(北区|浮間舟渡駅)
●銭湯お遍路番号:北区 1番(銭湯マップはこちら)
●住所:北区浮間4-6-10
●TEL:03-5392-1233
●営業時間:15~23時(最終入店22時40分)
●定休日:月曜
●交通:埼京線「浮間舟渡」駅下車、徒歩7分
●ホームページ:http://www.e-yunohana.com/
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