“銭湯は街のオアシス”と多くの人が言います。
今回ご紹介する平和湯は、「一日の平均乗降客数世界第3位」を誇る巨大ターミナル駅「池袋」西口(北)から歩いてわずか5分、へいわ通り商店街の中ほど、ビルの地下にあるという珍しいタイプの銭湯です。周辺には飲食店や遊興施設などが立ち並び、歩いていると新宿の歌舞伎町にも似た雰囲気を感じます。歌舞伎町と少し違うのは、建物の1階はカラフルでにぎやかな店舗ですが、上階は集合住宅が多いと感じること。古くからの住宅地が駅の発展と共に商業集積地と混在して形成された街なのでしょう。住民と池袋来訪客、ここで働く人達が入り交じり、にぎやかに行き交うカラフルな街の一角、ビルの地下。
“池袋のオアシス”として親しまれている平和湯の秘密とは、いったいどんなものなのでしょう。早速階段を下りてみましょう!
●柔らかく優しいお湯の秘密
“優しいお湯だなぁ”と誰もが言います。
平和湯では井戸から汲み上げた地下水を沸かしています。水質は軟水に近く、柔らかい肌触りと感じられる良質な地下水です。さらに「ヒートポンプ方式」という、空気中の熱と電気を利用してゆっくりと時間をかけた方法でお湯を沸かしているため、水質を変化させず、肌に優しく体を芯から暖める効果があるといわれています。また、この方式は「クリーンエネルギー」とも呼ばれており、環境にも配慮した優しいお湯です。
平和湯に入った帰り道、1時間かけて自宅へ帰っても、なお体はポカポカ。まだ湯船の中にいるような感覚でした。「湯冷めしないように」と、まるでお湯が優しく包み込んでくれているようでした。
●ゆったりできる浴槽の秘密
“のんびりできるからね”とお客さんが言います。
男湯も女湯も、ひょうたんを半分に割ったような形をした大きな浴槽が一つずつ。広々としてゆったりした居心地です。円座の部分にはバイブラの気泡、優しく体を刺激してくれます。思いっきり手足を伸ばしてもまだ余裕がある広さ。空いている時に円座部分を独り占めできると、とてもうれしくなります!
男湯の直線部分には2ヵ所のジェット、心地よく一日の疲れを癒してくれます。広い浴槽の中にいろいろな居場所。たっぷりのお湯だからこそのくつろぎが平和湯では楽しめます。
平和湯には近所の常連さんの他にも、さまざまなお客さんが訪れます。ターミナル駅近くという立地のため、夜行バスに乗る前にお風呂に入る人や、帰宅前に寄ってゆく池袋への通勤客、「ぶくろ」での飲み会前にさっぱり整えていく若者、仕事の前後で汗を流しに来る近隣商業施設で働く人たち……
「こんなところにある秘密の地下銭湯」を知ってしまったさまざまなお客さんが、それぞれのスタイルに合うくつろぎ方で、のんびりとした時間を過ごしています。
●優しい経営者の秘密
“お兄さん、感じいいよね”と若者たちが言います。
平和湯は戦前から池袋の地で銭湯を営んできました。昭和60年代初めに現在のビルに建て替えられ、銭湯エリアは地下1階に。歴史ある平和湯を現在守るのが、今回お話をうかがった原田勝幸さん。勤めていた会社を辞めて、銭湯業界へ飛び込んだのが約5年前。30代半ばの、若き銭湯経営者です。元々横浜の出身という原田さん、新婚時代は横浜に住んでいたのですが、平和湯がご実家の奥様は、地元の池袋を離れ、少し寂しそうだなと感じたということです。そこで一念発起! なんと奥様のご実家を継ぐと決めて池袋にやって来たのです。銭湯の仕事はおろか、今までほとんど行ったことすら無かった銭湯で食べてゆくと決めた、最大の要因は何ですか? と尋ねると「面白そうだったんですよね」と原田さん。
面白そうだけでは、なかなかハードな銭湯の仕事は務まらないのでは? とも思いますが、こうして銭湯を続けていられるのは、きっとご自身とご家族の努力はもちろんのこと、そこには横浜から池袋へ、地下鉄副都心線直通さながらの真っ直ぐな優しさがあったからなのですね!
「最近は若いお客さんが増えてきた」のも、原田さんが他の同世代の銭湯経営者たちと積極的に交流・情報交換し、若い感性で新しい価値の提供を考えているからに他なりません。デザイン性が高い物販や新しい客層へのアピール、施設の一部リニューアルなど「面白そうな」ことを次々と進めています。そんな平和湯の雰囲気が今「感じいい」と共感する若者を増やしているのでしょう。
●これからの平和湯はまだ秘密
“もっと広くアピールしたい”と原田さんが言います。
「近所の銭湯が無くなってしまったら、必要とする人が困ってしまう」
「銭湯は間違いなく、街のコミュニティの起点だと思います」
「地下の銭湯には地下の良さが、路面の銭湯には路面の良さがあるんです」
原田さんの言葉の端々から、銭湯を必要とする人たちへの優しさと街への思い、そしてご自身の仕事への愛情と誇りが垣間見えます。
「それぞれの銭湯が良さを高めていけるように、銭湯同士タッグを組んで行きたいです」と穏やかな中にも力強く、締めくくってくれました。
地下だからこそ、地上の喧騒を忘れて本当にのんびりできる銭湯。そこには秘密がたくさんありました。
若き経営者の次なるアクションを楽しみにしましょう。それはまだ、今のところ秘密です。
(写真・文:銭湯ライター 佐藤明俊)
【DATA】
平和湯(豊島区|池袋駅)
●銭湯お遍路番号:豊島区 22番
●住所:豊島区池袋2-64-11
●TEL:03-3971-7820
●営業時間:15~25時
●定休日:月曜・木曜
●交通:山手線「池袋」駅下車、徒歩5分
●ホームページ:http://www.heiwayu.net/
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