戦後、東京で銭湯が急激に増えた時代、その原動力となったのは新潟・富山・石川県出身者だったことはよく知られている。同時に、東京の周辺部では、宅地化が進むのに合わせて農家が広い敷地を活かし、銭湯を開業した例も多かったんだとか。今回訪ねた狛江市の「富の湯」も、代々農業を営んでいたが、近所に大規模団地ができるのをきっかけに、昭和41年に開業した銭湯だ。

 京王線国領駅で降りて歩くこと10分、昭和40年代に流行した鉄筋コンクリートの四角い銭湯が現れた。開店時間は午後2時と少し早め。10分前には多くの常連さんが集まり、よもやま話をしながら開店をまちわびていた。シャッターが開くと同時に店内へ吸い込まれる常連さんの後にくっついて筆者も店内へ。

 フロントにはサウナセットが山積みされており、人気が高いことがうかがえる。サウナ料金込みで550円はなかなかお得だ。

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 広めのロビーにはドリンクの冷蔵庫に加え、アイスがたくさん詰まった冷凍庫も用意されている。

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 脱衣場で目を引くのは、開店時から半世紀にわたって時を告げてきた大きな柱時計。そしてなぜか沖縄のシーサーが飾られているのがおもしろい。また、脱衣場には休憩用の個室が併設されており、マッサージ椅子が置かれているのだが、ちょっとした庭を照らすライトがピンクなのが、なんとなく艶かしい。

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 浴室は、白いタイルを基調としたシンプルな造り。正面の壁には、湖の向こうにお月様が浮かぶロマンチックなモザイクタイル絵(女湯は池のある庭園)が飾られている。そのタイル絵の下にある湯船は座るタイプで、強力なジェットが噴出し、背中、腰、ふくらはぎをグリグリとほぐしてくれる。その隣の湯船は電気風呂と気泡風呂で、石が入った格子からお湯が注がれている。電気風呂は、電気が通じる板が肩甲骨のあたりのちょうどいい高さ。電気がちょっと強めのようでよく効く。

 露天風呂は日替わりで薬湯が実施され、この日はコラーゲン風呂。ワインレッドに染まった湯船は華やかだ。ちなみにお湯をガスで沸かす銭湯が多いなか、富の湯では薪だけで井戸水を沸かしている。お湯の温度は子どもでもつかれる42℃くらいなので安心だ。

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 お風呂をひとめぐりしたあとは、2015年夏にリニューアルしたという遠赤外線サウナへ。真新しい室内は、10名近く入れるほどの広さがある。数名の相客とともにテレビを見ながら熱さをこらえ、水風呂へドボン。サウナ+水風呂ならではの爽快感がたまらない。

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 浴室は高齢者を中心に若い年代もチラホラ。早い時間にもかかわらず、なかなか賑やかだ。脱衣場でもロビーでもお客さん同士が楽しげに話す声がよく聞こえる。一見客でも気負うことなく入れる、地域密着型銭湯だ。

 ところで富の湯では、20年ほど前から日曜日に朝湯を実施中(8〜12時)。今ではすっかり定着し、朝湯目当てのお客さんで賑わう。ヤクルトのプレゼントも好評だ。朝から湯につかり、ちょっとした幸せを感じるのもいいかもしれない。

 さて、国領駅と富の湯の間には緑豊かな野川が流れる。川沿いの遊歩道を東に向かえば小田急線、西に向かえば京王線に突き当たる。武蔵野の緑を楽しむ散歩とセットで出かけるのも楽しそうだ。
(写真・文:編集部)


【DATA】
富の湯(狛江市|国領駅)
●銭湯お遍路番号:狛江市 1番
●住所:狛江市西野川4-5-14
●TEL:03-3488-2272
●営業時間:14〜24時(日曜は8〜12時も営業)
●定休日:月曜
●交通:京王線「国領」駅下車、徒歩10分
●ホームページ:–
銭湯マップはこちら

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女湯のモザイクタイルは池のある庭園

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ご主人の冨永正敏さんと奥様、息子さん

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緑あふれる野川は遊歩道あり

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昔ながらの堂々とした煙突が目印