前編はこちらからどうぞ
男湯へ。
浴室は入り口から奥に向かってずいぶんと縦長だ。まず左側に定員6名のドライサウナ。こちらは別途130円とリーズナブルに利用できる。温度も100℃近く、性能と清潔感も申し分ない。最近壁にヴィヒタが据えられ、雰囲気を高めている。そして毎週金曜日にはサウナ無料という、うれしいサービスがある。
サウナの向かい側には立ちシャワー、浴槽は男女境壁に沿って手前から大人4人ほどが入れるサイズの水風呂、次にバイブラ・ジェットを設えた白湯がメイン浴槽だ。42℃に設定された清らかな地下水がたっぷりと湛えられ、気泡がはじける水面からはランナーの鼓動さながらの活力を感じる。筋肉疲労に効果が高そうだ。さらに隣には、水風呂の半分ほどのサイズだが一つ目の変わり湯がレイアウトされている。この変わり湯は子供でも楽しめるよう40℃とやや温めの設定だ。日替わりでさまざまな色と香りを楽しむことができる。「ありとあらゆる入浴剤を試しましたね」と梅澤さん。その中から色と香り、井戸水との相性や効能で厳選した20種類を、現在はローテーションで提供しているそうだ。
浴槽付近には新聞などのメディアに「堤柳泉」が取り上げられた際の記事や「ふろともランニングクラブ」への勧誘などが貼ってあり、どれも名物店主の雰囲気そのままに朗らかな内容の記事である。
一つ目の変わり湯の向かい側には、3方を囲った小部屋のような浴槽があり、こちらが二つ目の変わり湯になっている。「靄(もや)」という乳白の湯は43.5℃とやや高温の設定で、「熱さを楽しもう」と貼り紙に書いてある。サウナを利用しなくても、この熱い湯と水風呂でしっかりと交代浴を楽しめる。近所の旦那衆にも「この熱さはうれしいねぇ」と好評だ。また、この乳白の湯は「糊がビシっと効いたシャツ」のような、どこか懐かしさを感じる香りがして、お洒落好きな浅草の旦那衆にもウケが良い。
これだけの広さと浴槽バリエーションだけでも十分にくつろぎ指数が上がるのだが、ここからが「堤柳泉」のさらなる奥深さ。ランナーにもそれ以外にも愛され続けている唯一無二のくつろぎエリアがまだまだある。
<FMラジオを聴きながらくつろぐ>
初めにいってしまうが「堤柳泉」の際立つ特徴、二つ目の側面が「FMラジオが流れる個室岩風呂」である。ここで極上のくつろぎが味わえる。特に常連の旦那衆からの評判はかなりのものだ。
奥行きが長い浴室レイアウトの一番奥、個室と書いたがサッシで仕切られた8畳ほどのゆったりとした岩風呂コーナーだ。和風のしつらえとバルコニー面のドアの隙間から入る外気が心地よく、こちらでは「宝寿湯(漢方薬湯)」の香りも相まって、思わず「ホッ」とする。そして天井付近にあるスピーカーからはFMラジオ放送が流れている。
サウナや浴室でTV放送などの映像や有線放送が楽しめる銭湯は多いが「堤柳泉」では浴室の最も奥、個室の岩風呂でラジオ、それもFM放送という絶妙のバランス。演歌やムード歌謡ではない。個室故にサッシを閉め切れば主浴室のシャワーやジェット、おけの音も遮られ、ラジオの音がやけに心地良い(現在は換気促進のためにサッシは開けた状態)。また、このFM放送は同時にサウナ、脱衣場にも流れている。
常連さん同様に褐色の湯に肩まで浸かり、目を閉じてみる。
聴覚の刺激から脳がゾワゾワし、心地よさを感じる「ASMR」という反応があるがこれもその一つといえよう。昔受験勉強の合間、深夜にそっと聴いたラジオ。ロングドライブをしながらカーラジオから流れたお気に入りの洋楽。残業のオフィスで焦る時間を鎮めるように聴こえたパーソナリティの声。「堤柳泉」の岩風呂でFM放送を聴きながらぼんやりと思い出す、このサウダージ(郷愁)感が、たまらないのだ。ランの疲れも、毎日の疲れも癒してくれる、くつろぎのひと時をぜひ一度体感してほしい。
江戸っ子を褒める言葉に「粋」がある。
一見地味だが裏に秘めている大きな仕掛け、このバランスは足りなければ野暮、行き過ぎれば気障。「いらっしゃいませ、のんびりしていってください!」今日も朗らかな声で迎えてくれる。さっぱりとした気質で威勢と気風が良い浅草っ子の「サブスリー銭湯店主」が仕掛ける「粋」な浅草の銭湯は、絶妙のバランスで遠くのランナーにも、近くの旦那衆にも、優しくくつろぎを与えてくれる。
(写真・文:銭湯ライター 佐藤明俊)
【DATA】
堤柳泉(台東区|三ノ輪駅)
●銭湯お遍路番号:台東区 14番
●住所:台東区千束4-5-4(銭湯マップはこちら)
●TEL:03-3871-2395
●営業時間:13~22時/日祝は12時から営業
●定休日:月曜
●交通:東京メトロ日比谷線「三ノ輪」駅より徒歩10分/
東京メトロ日比谷線「三ノ輪」駅よりバス。「吉原大門」下車、徒歩1分
●ホームページ:http://teiryusen.jp/
公式Twitter:@teiryusen
公式Facebook:https://www.facebook.com/堤柳泉-321566937856771/
※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください