中野駅周辺といえば、以前はアニメやマンガなどマニアックな町というイメージが強かったが、近年は警察大学校跡地の再開発により、オフィスビルや複数の大学、広大な公園などが誕生し、イメージががらりと変わった。今回は、そんな中野駅から徒歩15分ほどのところにある昭和湯を訪ねた。店は早稲田通りから警察病院前の路地を入った住宅街の中にあり、少々わかりづらいかもしれない。近づくと大きな煙突が見えてきた。昔ながらの宮造り銭湯をモダンに改装した銭湯だ。
出迎えてくれたのは、今年喜寿を迎えたというのが信じられないほど、溌剌としてダンディーなご主人、頓所(とんしょ)勲さん。
「昔は少しでもお湯がぬるいと“金魚が泳いでんぞ!”なんて怒られたもんだけど、最近はそういう威勢のいいお客さんはいなくなったねえ」
江戸っ子らしい口調がいかにも風呂屋のオヤジさんらしい。初代が有楽町で創業し、京橋、巣鴨と移り、この地に店を開いたのが昭和11年のこと。勲さんは3代目となる。現在は奥様と4代目となる息子さん夫婦で店を切り盛りする。
午後3時、開店を待ちわびていた大勢のお客さんとともに脱衣場へ。大黒柱には縁起物の大きな熊手が掛けられている。また、ロッカーで区切られた休憩スペースにはソファとテレビが置かれており、湯上がりはここでのんびり過ごす人も多い。「テレビを見ながら3〜4時間過ごす人もいるんだよ」とご主人は笑う。
浴室の扉を開けると、目に飛び込んできたのは浴室の奥に描かれたダイナミックなチップタイルの壁画。壁一面に描かれた2羽の鳥が太陽に向かって羽ばたく絵柄は、インパクトがすごい(女湯は南国の海を思わせる熱帯魚の群れ)。
浴槽はジェットが2種類、勢いのあるバイブラ、電気風呂が並ぶ。井戸水を薪と重油で沸かしている少し熱めのお湯にじっくりつかる。ジェットの刺激が心地よい。電気風呂は、首と肩が凝りやすい筆者が大好きな設備。あまり電極に近づき過ぎると痺れがきついので、慣れていない人はご注意。しっかり温まった後は、サウナ(200円で入れるため人気)の向かいにある水風呂に体を沈めて冷却。この交代浴を繰り返していると、心身ともリフレッシュして活力が生まれてくるから不思議だ。ちなみに水風呂だが、夏場は水をチラー(冷却器)に通すのでとても冷たくなるそうだ。
さて、ご主人の頓所さんは風呂屋一筋70年。手が大きく、指も節くれだっているのは長年重労働をこなしてきた証だろう。楽ではない仕事を長年営んできた感想を聞いてみた。
「他の仕事を知らないから比べられないけど、家族みんなで働けるし一番いい商売なんじゃないかな」
「働く時間も長いし重労働だけど、イヤだと思ったことはないね。まあ、最近はお客さんが減って寂しいかな」
そんな風に話すご主人の低く渋い挨拶が今日もフロントに響く。高校生の頃から浴客の背中を洗ってマッサージする「流し」をして稼いでいたというご主人は、銭湯業界の生き字引的存在。運がよければ、昭和銭湯の思い出話が聞けるかもしれない
店は深夜1時まで営業。併設のコインランドリーでは洗剤を無料で提供するなど、気風のいい豪傑肌のご主人の人柄が、店のあちこちに垣間見える銭湯だ。
(写真・文:編集部)
【DATA】
昭和湯(中野区|中野駅)
●銭湯お遍路番号:中野区7番
●住所:中野区野方1-21-1
●TEL:03-3385-3886
●営業時間:15〜25時
●定休日:土曜
●交通:中央線「中野」駅よりバス。「警察署病院前」下車、徒歩3分
●ホームページ:–
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