「サラリーマン時代の仕事はとにかく楽しくて、自分でも天職だと思ったよ!」と笑顔で当時を振り返ってくれたのは、錦湯のご主人、長谷川和宏さんだ。
錦湯は、東急電鉄の大井町線と池上線が乗り入れている旗の台駅にある。
実は筆者、根っからの池上線っ子で、生まれてこの方30年間池上線沿線に住み続けており、通勤、通学で毎日お世話になってきた「日本一」思い入れが強い路線なのだ! (編集部、錦湯を選んで頂きありがとうございます!!)
本題に入る前に東急池上線の魅力をちょっとだけ……(笑)。今では珍しい3両編成で、五反田~蒲田間を結ぶ路線距離10.9kmの電車。魅力はなんといっても、15駅それぞれの個性が際立っていること。
池上線の起点、五反田駅のホームは、なんと地上5階の高さにあり、見晴らしのいい高架から周辺を見渡せる。また途中駅である「~銀座」の元祖ともいえる日本屈指の商店街がある戸越銀座駅や、大きな池のほとりの洗足池公園で四季折々の景色を楽しむことができる洗足池駅、力道山の墓で有名な池上本門寺の最寄り駅となる池上駅などがある。ここでは語り尽くせない魅力が詰まっている池上線の旅に、ぜひ皆様お出掛けください!
閑話休題。本題に戻ると旗の台駅から徒歩7分ほどの場所にある錦湯は、今から59年前、ご主人が3歳頃にお父様がこの銭湯を始め、釜や配管などの設備関連、番台からフロント式への変更など計3回の改修を施し、平成元(1989)年に今の形に至る。
ご主人は平成20(2008)年に会社を辞め、2代目として家業を継いで、お母様と二人三脚で切り盛りしている。
◆天職だった!? サラリーマン時代
ご主人のバックボーンは少し異色で、子供の頃から銭湯の仕事は手伝っていたが、25歳で結婚して家を出て、約30年間サラリーマン生活を謳歌していた。
販売会社、いわゆる商社の営業として、商品の開発、製品化、販売までのすべてに携わり「出来ないものはない、何事も考えればできる」という、当時の社長の訓(おし)えから、常に仕事には全力投球だったという。
お客様との仕事では「なぜ出来ないのか? 全力をつくしたのか? 出来なければ、なんで? なんで? なんで? どうして? どうして? どうして?」の繰り返し、議論の深堀り、物事の本質を考えることを徹底的に行ったという。「この経験は財産だし、人生の転機だった」と当時を楽しそうに振り返る姿が非常に印象的だった。
◆風呂屋の本質とは?
そんなご主人が会社を辞め、風呂屋を継いだ。サラリーマン時代の考えるクセを風呂屋に置き換え、風呂屋の本質を考えた。そして導き出した結論が「とにかくお客様に心底気持ちよくなってもらうこと」だった。そのために掃除を徹底して行っている。
「風呂屋に行って、床や浴槽に垢がついていたり、カランが曇っていたら気持ち悪いでしょ? せっかく来てくださったお客様には心底気持ちよくなって帰って欲しい。だって風呂屋ってそうゆう場所でしょ」とご主人は力強く語る。現に床のタイル、浴槽、壁、鏡、サウナ、脱衣場どこを見ても隅々まで綺麗に掃除がされていた。
◆掃除には手を抜かない。毎日当たり前のことを着実にやるだけ
ご主人はお店が終了した夜12時から深夜の2時半まで、一人で掃除を行っている。カラン、シャワーの金具は汚れや垢を取ることは勿論、ピカピカに光るまで必ず磨き、水滴が残らないように、鏡やタイルは乾拭きを行う徹底ぶり。機械やタワシなどを使うと汚れは落ちやすいが、タイルや細かな部分を傷めるため、すべてを手作業で行っているという。
◆お風呂の種類は3種類
開放感のある浴室にお風呂は3つ。
備長炭入りの床から泡が出るミクロバイブラ(気泡風呂)、8ヵ所からジェットが噴出する座風呂、鉱石をお湯がくぐり湯船に注ぐガリウム石温浴泉が並ぶ。また、夏場に重宝される水風呂も完備している。
昭和大学病院が近いという土地柄もあり、患者のご家族や医師など常連客が中心のなかで、毎日様々な方が訪れる。老若男女、様々な方に心底気持ちよく入って欲しい!という強い思いが、ご主人の徹底した掃除の原動力になっていると、今回の取材を通して分かった。
お客様本位で考え尽くした結果、掃除を徹底的にやるということに行き着いたご主人。
そんなご主人の経験・人生が詰まった錦湯。
そんなご主人の思いにどっぷり浸かれる錦湯。
間違いなくお勧めです。池上線の旅と併せて、ぜひお立ち寄りください!!
(写真・文:銭湯ライター 工藤 亮)
【DATA】
錦湯(品川区|旗の台駅)
●銭湯お遍路番号:品川区 19番
●住所:品川区旗の台1-2-17
●TEL:03-3781-8618
●営業時間:15~24時
●定休日:土曜
●交通:東急池上線「旗の台」駅下車、徒歩7分
●ホームページ:http://www.shinagawa1010.jp/list/nishikiyu.html
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