三の輪湯（新宿区｜中井駅）　タイルアートと「音楽浴」が楽しめる！　川の町を見守る美しき銭湯

今回お邪魔したのは、新宿区上落合の三の輪湯さんです。最寄りの西武新宿線or大江戸線中井駅から妙正寺川沿いに歩くこと3分。一瞬ここが都心の幹線道路沿いであることを忘れてしまいそうな柔らかい水音に包まれた歩道は、初めての銭湯に向かう筆者の少しはやる心を落ち着かせてくれます。

「落合」の地名はこの妙正寺川（旧名：井草川）と神田川がこの辺りで合流していたことに由来します。昭和の初期から中ごろまで、豊かな水に恵まれたこの川の町には300軒を超える染物屋さんが集まり、京都・金沢に並ぶにぎわいを見せていたとのこと。今もこの妙正寺川沿いには染色の工房やアトリエが点在し、川面に反物を張る「川のギャラリー」等のイベントが毎年開かれるなど、下町情緒の中にもアーティスティックな彩を加えています。

そんな上落合の三の輪湯さんに着くと、優しい笑顔で迎えて頂いたのは、ご主人の渡邉一さんと奥様のみよ子さんでした。こちらの開業は昭和7（1932）年。モダンな建物からは想像もつきませんでしたが、中井～落合の街を見守ってきた歴史ある銭湯です。

そして、中に入って最初に目を奪われるのは、何といっても意匠をこらした独特のタイルアート。みよ子さんが洋画の画集を見ながら、入念に職人さんと打ち合わせたという壁面は、女湯が古代ローマの宮廷風、男湯がヨーロッパ風の庭園風景になっており、その緻密な細工に心奪われます。ご主人によると、本当は女湯と男湯のデザインは逆の予定だったそうで、「半分できあがってから、あれ？ってなったんだよ」と笑ってらっしゃいました。

デザインを主導されたみよ子さんの「推し」は女湯の壁面だそうですが、なんのなんの、筆者は男湯の壁面にも心奪われました。ともすれば平坦に感じてもおかしくないタイル画に深い奥行きがあり、広い浴槽がさらに広―く感じられます。定番の富士山と田子の浦もいいけど、花畑に吸い込まれそうな湯船もいいじゃないですか！　女湯と男湯のデザインは逆で良かったと思います。あくまで勝手な私見ですが……。

そして、次に目を見張ったのが、隅々まで行きとどいた清潔さ。「今はどこの家にも内湯があるし、それ以上のものを提供して、キレイでなきゃ」とおっしゃるご主人のお考えがそのまま現れた浴室や脱衣場のキレイさは、都内最高レベル。本当にピカピカです。

大小３つの湯船の温度と水風呂の温度設定も絶妙でした。お湯は関東の熱湯と関西の温（ぬる）湯のちょうど中ほどという印象で、熱すぎず温すぎず。水風呂はこちらも冷たすぎず、長めに浸かって身体の芯まで冷やせる温度設定。交代浴好きの筆者としては、キンキンの水風呂ではかえって身体の表面しか温度を下げられない気がするんです。これも勝手な私見ですが……。

サウナは有料のドライサウナと、「森林浴」と名付けられた無料のミストサウナが用意されています。「何曲聴いたら出るとか、曲数を数えながら入っている時間を調整できるように」とご主人がおっしゃった通り、ミストサウナには有線放送のリクエストチャンネルが小さな音量で流れています。

筆者が入った際には「キャンディーズ/ハートのエースが出てこない(1976)」→「ハイファイセット/フィーリング(1976)」→「小田和正/ラブストーリーは突然に(1991)」と、3曲カウントして出ました。ミストのシャワーを頭から浴びて緩んだところに、時代に共有されたヒット曲がうっすら染みわたる。邪魔にならずに、だけどメロディを追える音量がとても絶妙で、自然に頭に音楽が鳴り、心は「あの頃」に飛びます。このミストサウナは、筆者にとっては「森林浴」じゃなくて「音楽浴」でした！

渡邉一さん、みよ子さんご夫妻の温かい人柄と、都内屈指のタイル画、そして名付けて「音楽浴」。川の町を見守る美しき銭湯、上落合・三の輪湯。おススメです！

（写真・文：銭湯ライター　品川致審）

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【DATA】
三の輪湯（新宿区｜中井駅）
●銭湯お遍路番号：新宿区　4番
●住所：新宿区上落合3-31-2
●TEL：03-3368-2661
●営業時間：15時半～25時
●定休日：月曜
●交通：西武新宿線「中井」駅下車、徒歩3分
●ホームページ：http://1010yuge-g.jp/
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