JR新大久保駅周辺は、いわずと知れたコリアンタウン。韓国料理や韓流アイドルグッズの店、コスメショップなどが軒を連ねている。そんな町の一角に店を構える「万年湯」を訪ねた。
平日にもかかわらず歩道にあふれる人波をかきわけ、ここはどこの国かと思わせるほどハングル文字があふれる大久保通りを東へ進むこと5分。とある路地の奥にある、大きな鳥居のようなゲートに「万年湯」の文字が見えた。極彩色の派手な看板が多いこの町では、その木目調のゲートがやけに落ち着いて見え、まるで「ここから先は別世界ですよ」という結界のようにも感じられる。
さて、万年湯は2016年8月にリニューアルオープンしたばかり。「都会の隠し湯をイメージして全面的に改装しました」と話すのは、店主の武田信玄(のぶよし)さん。玄関、下足場、ロビー、脱衣場と木をふんだんに取り入れた和のデザインで統一され、温かみのある電球色の照明が店内をやわらかに照らし出している。リニューアルを担当したのは、ふくの湯(文京区)、御谷湯(墨田区)などを手がけたことでも知られる建築家の今井健太郎さんだ。
浴室は明るい色のタイルを基調とし、一般的に富士山の背景画が描かれることが多い正面の壁面には鶴のモザイクタイルがはめ込まれており、浴室全体がどことなく雅な雰囲気だ。個々のカラン部分に設置された照明も、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
正面にある大きな湯船は、座風呂、電気風呂、バイブラが設置されており、お湯はぬるめで子どもでも安心して入れる。その隣に独立して設けられた高温風呂は44℃くらいの設定。ただ高温なだけでなく、超微細気泡が毛穴の汚れまで落としてくれる「シルク湯」が導入されているのがうれしい。高温風呂につかっているとシューッと音がするのは、超微細気泡が湯船に送り込まれている音のようだ。
その隣の一角は水風呂で、サウナはなくとも設置してあるのがうれしい。この水風呂、衝立で仕切られていて、なんとなく秘密の小部屋めいている。高温風呂と水風呂を行き来すると肌が引き締まり、心身ともにすっきりするので筆者は好きなのだが、同じように2つの湯船を行き来する常連さんもいて、タイミングがかぶらないように見計らって交互に利用した。ちなみにお湯は浴槽、蛇口ともに全て硬度成分を濾過した、肌にやさしい軟水を利用している。
この日、入浴したのは夕方の早い時間だったので、常連らしき高齢のお客さんが多かったが、若い人もチラホラ。お湯と桶の音しかしない静かな浴室で過ごしていると、コリアンタウンの賑わいが遠い世界のように思える。
さて、改装でガラリと雰囲気が変わった万年湯だが、実はカランや浴槽の配置はほとんど変わっていない。「浴槽やカランの位置を変えると、常連さんたちが戸惑うんじゃないかと思って、そのままにしました」と武田さん。壁際に浴槽があるオーソドックスなレイアウトながら、雰囲気が大きく変わったことで、改装後は常連さんに加え、若いお客さんが飛躍的に増えたそうだ。また、「バスタ新宿」で降りてJRで一駅という利便性から、旅行者の利用も多い。そのほか、欧米の観光客もよく入浴に訪れるとか。「入浴後は “アメージング” とか、“マーベラス” なんて喜んでくれてますね(笑)」。
アジアの雑踏を思わせる新大久保界隈。その路地の奥の一角でひっそりと(?)営業する万年湯は、まさに都会の隠し湯。極彩色な街中と落ち着いた雰囲気の店内のギャップは、きっと訪れる人を驚かせるはず。和の世界で癒された後は、再びアジアの喧騒の中をさまよってみたい。
(写真・文:編集部)
【DATA】
万年湯(新宿区|新大久保駅)
●銭湯お遍路番号:新宿区17番
●住所:新宿区大久保1-15-17
●TEL:03-3200-4734
●営業時間:15~24時
●定休日:土曜
●交通:山手線「新大久保」駅下車、徒歩5分
●ホームページ:http://1010yuge-g.jp/map.html
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