有楽町線千川駅から徒歩10分ほどの場所にある「クアパレス藤」を訪ねた。周辺はこれといった特徴のある建物がない住宅街。店の前に掲げられたオレンジ色の看板が目印だ。都心の銭湯では珍しく5台分の駐車場を備えており、その奥にある一見瀟洒な住宅風のモダンな建物が「クアパレス藤」だ。
「銭湯ってお湯が熱いイメージがあるでしょ。でも、内風呂に慣れた人には熱すぎるんじゃないかと思って、温度をぬるめにしたんです」と話すのは、オーナーの辻村さん。辻村さんは10年ほど前、先代が亡くなったのをきっかけに店を継いだ。そのとき、人出不足で店を再開できずにいた辻村さんの相談に乗ってくれたのが、以前から付き合いのあった現店長の友野さんのご家族。友野さん一家は「これも何かの縁」と、それまで池袋で営んでいた鮮魚店を閉め、銭湯へ転業。以来、辻村さんと友野さん一家は二人三脚で店を盛り立ててきた。
入り口を入るとフロントの右側が広めのロビーとなっている。そこには大きな水槽が並び、中には色とりどりの熱帯魚が優雅に泳ぐ。これらはすべて、魚好きの友野さんが海で採集してきたもの。小さなお子さんが食い入るように魚たちを見つめていて、お父さんにお風呂をうながされているが、なかなか水槽から離れられない。
浴室は白を基調としたモダンなデザインだが、湯船のレイアウトは独特だ。男湯は入り口近くに半円形の独立した湯船が設置されており、薬湯を毎日実施している。湯船に入れられているのは、40種以上のミネラル成分が配合された人工温泉「薬石の湯」だ。お湯が白濁しているので温泉気分が味わえ、よく温まり、肌がしっとりするほか、温度もぬるめで人気がある。その奥にある白湯(しらゆ)の湯船も丸みを帯びた珍しい形状。こちらの温度は少し高め(41~42℃)で3種類のジェットを備えている。ジェットの中でも背中へ噴出するタイプは強力なので、背中や肩のこりにお悩みの人はぜひ試してほしい。
白湯の湯船に面したガラス窓の向こう側には、露天風呂が設置されている。大きくはないが、外気に触れられて気持ちがいい。露天風呂の脇には石を埋め込んだ足裏のツボ押しコーナーが目を引く。試してみると、足裏全般に広がる痛みにまっすぐ立つことすらむずかしい。この痛みが心地よく感じるようになるには、かなりの鍛錬が必要かも!?
10名近く入れるサウナはパンチの効いた熱さでファンが多い。サウナ代は200円だが、ペットボトルの水がもらえるので実質100円以下。また、サウナに長居する人が多い男湯では、凍らせたペットボトルをもらえるのも好評だ。
女湯の浴室は男湯と異なり、白湯の湯船がまるで笹の葉のような丸みを帯びた細長い形状で、かなり大きい。奥のほうに男湯同様3種のジェットがあり、さらに奥の水風呂へとつながる。その向かいには大きな薬湯の湯船とサウナ。こぢんまりとした露天風呂の脇には、休憩スペースが設けられており、外気浴を存分に楽しむことができる。
お風呂を堪能した後は、ロビーで休憩。スペースが広いこともあって駄菓子やドリンクの品揃えも充実。フロントで販売されている生ビールでのどを潤しながら、水槽の中でゆったりと泳ぐ熱帯魚の姿に時間を忘れ、ほっとひといき。
さて、冒頭でご紹介した通り「クアパレス藤」のお湯の温度は、辻村さんの方針もあって全般的にぬるめ。それが功を奏したのか、この数年来、週末を中心に若いお客さんが増えている。子どもも安心してつかれるとあって、家族連れのお客さんも多いとのこと。店の周辺は近年住宅が増え、新しい住民が多いそうだが、「クアパレス藤」はそういった人たちの心もしっかり捉えているようだ。
ここで耳寄りな情報を。「クアパレス藤」は、2017年に現在の建物が築20年を迎えるのを機に改装を検討しているとのこと。新旧を比べるためにも、ぜひ改装前の来訪をおすすめしたい。
筆者がひとっ風呂浴びて店を出ると、真冬の日の入りは早く、5時前だというのにあたりは既に暗い。駅へ向かって少し歩いて振り返ると、住宅街の中でクアパレス藤の看板だけがぽっかりと明るい。その光に引き寄せられるかのように、自転車に乗った男性が銭湯の敷地へと姿を消した。
(写真・文:編集部)
【DATA】
クアパレス藤(板橋区|千川駅)
●銭湯お遍路番号:板橋区 12番
●住所:板橋区南町39-10
●TEL:03-3959-1126
●営業時間:15時半~24時
●定休日:水曜、第4木曜
●交通:東京メトロ有楽町線「千川」駅下車、徒歩10分
●ホームページ:http://1010itabashi.or.jp/detail/332/
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