2020年12月末。中野区にある「健康浴泉」がリニューアル工事により“健康と美肌の湯”に生まれ変わった。浴室のドアを開けると、洗練された雰囲気が広がる一方で、どこかホッとする。天井から壁まで続く、やわらかい木目調。湯を心地よく照らす、スポットライト。どうやら、その一つ一つが織りなす雰囲気のおかげのようだ。
あとは、存分に癒されるだけ。「これが470円(※)で入浴できるなんて」と、まず驚いてみてほしい。(※)2021年3月時点の大人入浴料金

 

●健康と美肌はお湯から。「軟水」に浸かろう

「健康と美肌。誰もが持つ願いを、地元でかなうようにしました」と話すのは、リニューアルを機に経営を任された3代目・藤田進(すすむ)さん。
健康浴泉ではリニューアル前に一部の浴槽に導入していた「軟水」が人気だったので、リニューアルに際してはよりたっぷり楽しんでほしいと、全ての浴槽をはじめカラン・シャワーに至るまで全面的に軟水を導入した。肌に吸い付くような、心地よい感触。軟水がなんとなく「いいモノ」であることは多くの人が知っているが、「具体的なところまで実感してほしい」との思いから説明看板も設けた。「高齢者の肌荒れ防止」等は筆者も知らなかった情報で、藤田さんがこのリニューアルにかけた思いを感じる。

軟水を説明する看板

●ひろびろ! 高濃度炭酸泉

新たに加わったのが「高濃度炭酸泉」。高濃度というだけあって、炭酸粒がプツプツと肌に付くのが驚くほどすぐわかる。くすぐったく心地よい炭酸粒、なめらかな肌触りの軟水、それらをたたえた大きな炭酸泉の浴槽は、健康浴泉の顔とも言えるだろう。

女湯の炭酸泉。左奥に電気風呂がある

日中は日が差し込む男湯の炭酸泉

スポットライトに照らされる炭酸粒はキラキラ輝いて、眼も癒される。
また、女湯の炭酸泉の浴槽にはひっそりと電気風呂が仕込まれている。「電気風呂鑑定士」のけんちんさん(@kenchin)に伺ったところ「炭酸泉とマッサージ式電気風呂の組み合わせは、関東では珍しい」とのことだった。炭酸粒のやさしい刺激と電気の刺激……。きっと今まで体験したことがない、炭酸泉体験ができる。

こちらも「軟水」に関する看板と同様、紹介看板がある。「炭酸ガスが吸収され血行がよくなります」「神経がリラックスして熟睡できるようになります」「お湯はph4.5の弱酸性で贅沢な化粧水風呂です」等。「化粧水風呂」なんて、つい誰かに教えてあげたくなる。

 

●ゴージャスなだけではないシルク風呂

もう一つのこだわり湯は「シルキーバス」。その名の通り、シルクのような滑らかな湯がぜいたくな気分を演出してくれる。シルキーバスといえば筆者は以前「こんな真っ白でキレイなお風呂なのに、入浴剤入れていないの!?」という感動を覚えた記憶がある。かつて超敏感肌だった私は、入浴剤の湯もピリピリして浸かれない時があった。しかし、非日常のお湯は楽しみたい。そんなニーズもかなえてくれるのがシルキーバスだと思っている。

藤田さんが、シルキーバスのスイッチをオンにする瞬間を見せてくれた。透明な浴槽の湯が、一気に白濁してゆく。白濁の秘密であるマイクロバブルが、血行を促進してくれるし、お肌へのピーリング効果も期待できる。

白濁がお肌にもうれしいシルキーバス(女湯)

男湯にもシルキーバスを設置

こうして、こだわりの湯を楽しむにつれ、それらの設備は「人気だから」という理由だけではなく「本当に健康によいもの」だから健康浴泉にあるのだと改めて思った。それぞれの設備について知っているつもりでも、浴室内の説明看板を改めて読んでみてほしい。

 

●ボディジェット等の設備いろいろ

他にも「超」勢いがいい「ボディジェット」など、よりピンポイントに体をほぐすことができる設備も整っている。「ねえ、これ、すっごい勢いよ!」と常連さんが興奮気味に、私に話しかけてくださった。「うわ、ほんとですね!」 私も共感すると「新しいって、すごいよねえ?」というつぶやきに、この銭湯の常連であることへの誇りを、私は感じた。

常連さんもびっくりのジェットバス

●男湯女湯・きめ細かでやさしい「違い」

ここまでお湯の紹介を中心にさせていただいた通り、男湯と女湯で大きな設備差はない。しかし男女それぞれに合わせた細かな違いが、実はある。

 

若旦那監修・男女に合わせたサウナ

1つはサウナの種類が異なる点。男湯は「高温ドライサウナ」。ガッツリ汗をかきたいサウナーも満足のマックス95℃だ。女湯は湿度が高い「コンフォートサウナ」。その名の通り、快適さとお肌へのやさしさを意識した。リニューアル前、女湯にはサウナがなかったので待望のサウナとなる。実はプレオープン日に「女湯も、サウナできた?」と聞く、通りすがりのご近所さんをお見かけしたくらいだ。安心してください、あります。

コンフォートサウナはもちろん、顔がチリチリするような熱さがなく快適だ。そして、いい汗がにじみ出てきた。男女ともにレンガ造りのサウナ室は、その明るめの色で落ち着く。また、浴室が見える小窓もアクセントだ。水風呂が空いているかを即確認できるし、洗練された浴室は景色としても申し分ない。
「以前はサウナを体重管理に使っていましたね」と、藤田さんは振り返る。なんとボクシングをされていたそうだ。これほどきめ細かなサウナの配慮は、若旦那の経験に基づくものだったのだと唸ってしまう。
看板には「月1~2回ではなく、週2~3回のサウナがさらに効果的」といった案内がある。これほど心地いいなら、言われなくても来たくなる。

ナチュラルなレンガと木目のサウナ室(男湯)

サウナの中から水風呂が見えます(男湯)

指先まで心地よい感触の軟水・水風呂(女湯)

男湯は太陽、女湯は月

もう1つの男女浴室の違いは「雰囲気」だ。通り側に位置する男湯は、陽の光を活かした設計に。一方、女湯は「落ち着いて浸かれるよう」と少し奥まったスペースも設けた。そのせいか、日中の男湯は例えるなら「太陽」。女湯は「月」といった印象だ。
筆者は女だが、やはり女湯の落ち着いた雰囲気が好きだ。別の取材で来た男性は、私とは逆に男湯のほうが好みと答えていたそうなので、おもしろいものだ。比べてこそ気付く違いではあるが、そんな繊細な工夫がされていると思うと、雰囲気まるごとを楽しんでいただける気がする。

日中は日差しが注ぐ男湯

落ち着いた雰囲気の女湯

●健康浴泉の心、ここにあり

ここまでは「設備」を中心に紹介したが、健康浴泉に足を運ぶにあたり、ぜひ伝えたいことがある。それは経営者の人柄である。

段差の少ない入り口

プレオープンの日。入り口を、しげしげと眺める男性がゆっくりとカメラを構え、入り口を撮影していた。2代目・藤田友彦さんだ。リニューアル前の健康浴泉は、友彦さんが撮影した写真や、生前交流のあった赤塚不二夫氏の作品やサインが所狭しと飾られていた。それらは今、店内に一切ない。

「全て“3代目に任せる”と決めているんです」。友彦さんは力強く語る。そして「新しいことをやるには、思い切ってやらなくてはいけないですし」と付け加えた。その「思い切る」ミッションを負った3代目・進さんは決意を持って、大胆なリニューアルに踏み切った。親子の信頼しあう決断が、この新しい健康浴泉を作っている。

今回の取材では、友彦さんがかつて飾っていたパネルの一部を見せてくださった。お宝モノの赤塚不二夫氏の作品はもちろん、昭和レトロな雑誌の表紙絵、ゆっポくんのイラスト等。

コレクションを見せてくれた友彦さん・悦子さんご夫婦

友彦さんはそれぞれを「ご存じですか?」と筆者に尋ねたうえで、説明してくれた。それらのパネルは趣味であるだけでなく、「お客様に楽しんでいただきたい」という思いで集めたことがひしひしと感じられた。
その話にそっとうなずく、着物姿の奥様の悦子さん。これまでも「おしどり夫婦」として取材を受けてきたゆえんを垣間見ることでき、心も温まった。そして「引き止めてしまって、すみませんね」と配慮する進さん。

……そう、設備や建物は変わっても経営者の人柄は変わらない。なかなか会話を楽しめない昨今だが、少しでもその温かさを感じ取っていただけたらうれしい。

健康浴泉を営む藤田家の皆さん

(写真・文:銭湯ライター 銭湯OLやすこ


【DATA】
健康浴泉(中野区|東中野駅)
●銭湯お遍路番号:中野区 18番
●住所:中野区東中野3-17-3
●TEL:03-3362-3524
●営業時間:15~24時半(最終入場24時)
●定休日:水曜
●交通:総武線「東中野」駅下車、徒歩5分
東京メトロ東西線「落合」駅下車、徒歩5分
●ホームページ:http://kenkouyokusen.tokyo/
●Twitter:@dekasupio 
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