3年後に東京オリンピック開催を控えた今、東京中で大規模な再開発工事が行われ、街の風景も大きく変わろうとしている。そんな東京の中心部にあっても昭和の風情を残しているのが佃島。建ち並ぶ高層マンションの麓には懐かしい町並みが広がる。その佃島で昭和20年代後半から銭湯を営む「日の出湯」を訪ねた。

 佃島は、江戸初期に徳川家康が摂津国(現大阪府)佃村・大和田村の漁師を呼び寄せ、漁業権を与えて住まわせたのが発祥という古い歴史を持つ。

「同じ佃でも、地元の人たちは一丁目を元佃、二丁目を新佃といって呼び分けているんです。昔からここに住んでいるっていう誇りでしょうね」と教えてくれたのは、女将の大脇良子さん。70代とは思えない肌ツヤのよさと、きっぷのいい語り口が印象的だ。日の出湯があるのは、その「元佃」といわれる佃一丁目だ。

 日の出湯は、月島駅から徒歩4分。赤い欄干が目を引く「佃小橋」の袂(たもと)にあるビル銭湯で、煙突には屋号が書かれているので見つけやすい。男女に分かれた店の入り口は、ちょっと珍しい。

「お客さんは、ほとんど地元の高齢者。開店の10分前から待っている人もいるんですよ。昔は入れ墨を入れた漁師のお客さんも多くて、洗い場ではいろいろな絵が見られたけど、今はそんな人はいなくなっちゃったわね」。地元の高齢客が多いとはいえ、オフィス街にも近いことから、荷物を預けて隅田川沿いを走る「銭湯ランナー」の利用も多いそうだ。

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 さて、銭湯は週に一日か二日の休みがあるのが普通だが、日の出湯は驚くことに年中無休。

「私は生まれた時から風呂屋の娘。お店を開けていないと落ち着かないの。工事で休まざるをえない時は寂しくてしょうがない。それぐらい銭湯が好きなんです」。女将さんの銭湯愛ゆえの無休だったとは! でも休まないと体が大変なのでは? 「まあ私も歳だし、息子が休みを作ろうっていうから、そのうち定休日をつくるかもしれない(笑)」

 入り口の券売機でチケット購入して小ぢんまりした脱衣場に入ると、なぜか(?)天井付近に鏡が斜めに設置されているのがちょっと不思議だ。脱衣場の傍らにある貴重品用ロッカーはありがたい。

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 浴室はコンパクトな作りで、湯船は「ぬるい」「中かん」「あつい」の3つに分かれている。一番奥の「あつい」湯船に注がれたお湯が、隣の湯船へ流れることで徐々に温度が下がるという仕組みだ(サウナと水風呂は休止中)。

「うちの常連さんはあつ湯好きが多い」と女将が話すように、一番広い「あつい」の湯船は確かに熱い。たぶん43~44℃くらいか。その隣の「中かん」であるジェットバス付きの湯船はいくぶんぬるめ。電気風呂が設置された「ぬるい」の湯船は入りやすい温度だ。「ぬるい」の湯船には水栓がついているので、ぬる湯好きの人はこの湯船へ入ろう。

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 日の出湯がある佃1丁目周辺は、冒頭で紹介したようにぽっかりと昭和の風情が残る。軒を連ねる木造家屋、植木鉢が置かれた路地、いかにも老舗といった佇まいの佃煮屋、落語「佃祭」に登場する渡船場の跡、酒屋、駄菓子屋、水路に繋留されている漁船……。平成も30年になろうとする今、東京の真ん中にこれだけ昭和の風情が漂う町が残っていて、なおかつ江戸伝統の熱い湯が売りの銭湯があるというのは、奇跡ではないか。佃一丁目を囲むように林立する高層ビル群が、この町の魅力を一層際立たせている。
(写真・文:編集部)


【DATA】
日の出湯(中央区|月島駅)
●銭湯お遍路番号:中央区 8番
●住所:中央区佃1-6-7
●TEL:03-3532-1629
●営業時間:15~24時
●定休日:無休
●交通:東京メトロ有楽町線「月島」駅下車、徒歩4分
●ホームページ:http://www.268chuou.com/list/detail07.php
銭湯マップはこちら

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手前の電気風呂がぬるい湯船

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貴重品用のロッカーも完備

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銭湯が大好きな大脇良子さんと3代目の広仲さん

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佃っ子が集まる、昔懐かしい駄菓子屋

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佃一丁目には風情ある町並みが残る

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佃小橋の上にはこんな注意書きも

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大阪から佃島へ人が移り住んだ際に
創建された住吉神社は日の出湯のすぐそば

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隅田川のほとりにある
千貫神輿を展示した「佃まちかど展示館」