今回ご紹介する「鳩の湯」は、中央線の国立駅から徒歩10分弱の場所にあります。「鳩の湯」のある駅の南口は、道が放射状に伸びていて、初めての人でも迷わず歩ける親切な町並です。南口を出て左の方に広がる「旭通り」が、「鳩の湯」への入り口です。「国立さくら病院」を過ぎてもうしばらく歩き、「東二丁目」交差点の10数メートル手前左側の細い道をのぞくと、「鳩の湯」という文字と鳩のロゴマークに加え、木に彫られた仏像が賑やかに迎えてくれます。この仏像は、たまたま桐の木を枝打ちしていたのを見た仏像製作者の方の申し出によって、今も彫られているそうです。
仏様の眼光を背に受けながら、のれんをくぐります。正面にあるのは、ちょっと変わった傘「入れ」。「傘立て」ではありません(笑)。ここに傘をさっと入れられるかどうかで、「鳩の湯」経験値が判明するとかしないとか!
掃除の行き届いた木の床の脱衣場に入ると、気持ちが高まります! 脱衣場の片方の壁は鏡になっており、混んでいるときでも窮屈さを感じさせません。番台のそばにはバスの時刻表が貼ってあります。湯上がりに冷めないようにという、ご主人の気配りでしょう(最寄バス停は、国立駅南口と府中駅を結ぶ京王バスの「旭通り坂下」)。
そんな気配り上手なご主人は3代目。初代のお祖父さんが開業したのは、昭和34(1959)年。「全国公衆浴場業環境衛生同業組合連合会」という銭湯の全国組織ができた翌年で、まさに銭湯の全盛期でもありました。お祖父さんの前に半年間だけ別の方が経営していたそうですが、「鳩の湯」という名前はお祖父さんの代から。北陸地方から上京したお祖父さんは、初めは大田区の銭湯で修行を積み、この地での開業に踏み切りました。珍しい「鳩の湯」という名前は、お祖父さんの修行先からもらったそうです。今では、ロゴマークやオリジナル手ぬぐいもあります!
浴室の正面からは、伊豆から眺めた富士が見守ってくれます。やっぱりこれですね! このペンキ画の前の絵は、実はネット上で募金を募る「クラウドファンディング」で資金を集めて描いてもらったそうです。ただ描いてもらうだけでなく、ライブペインティングにしたそうですが、そのときには、ネットで初めて「鳩の湯」を知った人が来店するなど、いろいろなドラマがあったそうです。
お湯は、ジェット、バイブラ、水風呂、サウナ(男性のみ)が揃っています。取材に訪れたのは、ちょうど寒さが厳しかった冬のある日。取材であることも忘れて、お風呂をいただきました。ジェットバスは、冷えた体を温めてほぐすのに最高でした。冬はもちろん夏でも、特に体を動かした後には、最高のくつろぎ効果が期待できそうです!
今回は、15時の開店からほどなくして入浴しましたが、浴室には常に8人ほどのお客さんがいらっしゃいました。地域にしっかりと根を下ろしていることがうかがえます。ご主人によると、この時間帯は常連の年配のお客さんが中心で、お客さん同士の会話も弾むようです。確かに、浴室でも脱衣場でも会話が聞こえましたし、あるお客さんは、床に敷かれたマットのズレを直してから帰りました。「鳩の湯」が愛されていることがよくわかりました。
夕方になるともっと中年層が増えるそうです。いったん帰宅して「出撃」してくる方が多いとか。某国立大学の裏手にあるだけあって、夜になると、大学生などの若者も増えるようです。運動部の学生が連れ立って来ることは前からあったようですが、一人二人で初めて来る学生さんも近年は増えているようです。中には留学生もいますが、ほとんどが日本語をマスターした人ばかりなので、トラブルはないそうです。
他にも前より増えている客層があります。どういう世代だか、分かりますか?? 正解は、2~3歳の小さな子どもを連れたお客さんです。「オムツが外れる前は銭湯に行くのはよくない(いきなりオシッコやウンチをしてしまうから)」とも言われていますが、ご主人は、ちゃんと親が見ていてくれれば構わない、と言います。実は筆者には2歳になったばかりの子どもがいますので、このお言葉に甘えて、近いうちに子どもを銭湯デビューさせられればいいなと、秘かに思っています!
いろいろな取り組みをされている鳩の湯ですが、それもこれもすべて、「お客さんの声が一番うれしい」というご主人の気持ちに始まるものです。駅前や駅からの道には、ちょっと懐かしい雰囲気の喫茶店や古本屋さんが見つかります。銭湯を起点にした街歩きもいいかもしれません!
(写真・文:銭湯ライター 濱 雄亮)
【DATA】
鳩の湯(国立市|国立駅)
●銭湯お遍路番号:国立市 2番
●住所:国立市東2-8-19
●TEL:042-572-0918
●営業時間:15~24時
●定休日:月曜
●交通:中央線「国立」駅下車、徒歩8分
●ホームページ:http://hatonoyu.jp/
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