再開発で駅前の風景がすっかり変わろうとしているJR三鷹駅周辺。その南口を出て徒歩3分のところにある「春の湯」を訪ねた。
春の湯の創業は昭和32年。平成3年に現在のビル型銭湯に生まれ変わった。下足場からは階段を下って店に入る半地下の銭湯なのだが、入り口には大きな油絵がかかっている。「屋号の春をイメージさせる草原の絵なの。なかなかいいでしょ」と出迎えてくれたのは、ハキハキした話っぷりが印象的なおかみさん。ロビーにも息子さん自らが描いた絵がいくつも飾られており、落ち着いた雰囲気が漂う。
脱衣場は季節の花々で彩られ、華やかだ。店が半地下で庭がないため緑がほしかったこと、そしておかみさんが何より大の花好きであることから、常に花を飾るようになったという。「こんなにお花を飾っている銭湯はない」と、お客さんにも長年喜ばれている。また、床にたくさん並べられた足ふきタオルも、脱衣場の快適な環境維持に役立っている。
開店の午後4時、常連さんたちとともに浴室へ。イタリア製のタイルが貼られた浴室はタイルの目地にいたるまでピカピカで、おかみさんの掃除にかける並々ならぬこだわりを感じるほどの清潔感。「一に清掃、二に清掃がモットーなの。お客さんに“来てよかった”と、喜ばれるように毎日頑張ってます」。
お湯の温度設定は昔から銭湯にとって頭の痛い問題だが、こちらでは平成3年の改築時に高温湯の浴槽を設けることで解決策とした。「若い人は熱い湯は入らないと思ってお湯をぬるくしたんだけど、昔からのお客さんの要望にもこたえたいから、高温湯の浴槽を作ったの」とおかみさん。一番ぬるいのは季節ごとに変わる薬湯、次に座風呂・ミクロンバイブラ、そして高温湯と3種類の温度が選べるのはうれしい。
ぬるめの薬湯や座風呂で体を慣らし、それから高温湯へ。筆者は熱い湯につからないと入った気がしないので、この浴槽はうれしい。高温とはいえ激熱ではなく、43℃くらいか。隣の水風呂と交互につかれば心身ともスッキリして、まるで身が軽くなったようだ。
さて、春の湯は駅に近い便利な立地のため、周辺には大きなマンションやビルが建ち並んでいるが、以前、近所で高層ビルが計画され、工事で井戸の水脈が絶たれるのではないかと危惧されたことがあった。その際は「春の湯を守る会」が結成され、1週間で2000名もの署名が集まり、井戸水を守ることができたという。最近では常連である書道家の方から「銭湯を頑張って続けてほしい」との思いを込めて書いたという屏風が贈られた。いずれも春の湯がいかに近隣住民から愛されているかわかるエピソードだ。
「銭湯の仕事は休みも少ないし大変。でも、昔から続いてきた商売だし、地域にとって“なくてはならないもの”という責任感があるから頑張れるのよね」というおかみさん。長年かけて築き上げられた春の湯とお客さんとの絆はとても堅いようだ。
駅に近くて、深夜まで営業しているため、会社帰りの勤め人や若いお客さんも多い。週末は家族連れやスポーツ後の若者なども訪れるという。女性経営者ならではの細やかな気遣いで生まれた居心地のよい空間は、一度足を運べばきっとリピーターになるはずだ。
そうそう、長年にわたって毎日大きなお風呂につかっているおかみさんは、年齢を感じさせないほど肌がきれいだ。地下110mから汲み上げた井戸水を沸かした大きな風呂の美肌効果を、ぜひ湯につかって実感してほしい。
(写真・文:編集部)
【DATA】
春の湯(三鷹市|三鷹駅)
●銭湯お遍路番号:三鷹市2番
●住所:三鷹市下連雀3-37-12
●TEL:0422-43-5832
●営業時間:16〜24時
●定休日:木曜
●交通:中央線「三鷹」駅下車、徒歩3分
●ホームページ:——
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