平成の再開発により、駅前にペデストリアンデッキが設けられ、商業施設が建ち並ぶ近代的な街並みへとすっかり変わった京王線府中駅周辺。そんな駅の南口改札を出てショッピングモール「くるる」を抜けると、交差点越しに「府中湯楽館 桜湯」の入り口が見える。改札から徒歩3分の駅チカ銭湯だ。

実はこの桜湯、2017年から約2年休業していた。それを「立川湯屋敷 梅の湯」のオーナー佐伯雅斗(まさとし)さんが再建を引き受け、2020年1月にリニューアルオープンさせた。これを機に桜湯という屋号を“風呂だけでなく湯上がりも楽しめる場所にしたい”という願いをこめて「府中湯楽館 桜湯」に変更。さらに店のコンセプトに「大正ロマン」を掲げ、洋館風の玄関を構えた。玄関脇に据えられたレトロなポストと相まって、マンションの1階にありながら桜湯だけが別世界の趣だ。

店内に足を踏み入れてみれば、大正テイスト一色。改装時に脱衣場までの導線を見直し、ロビースペースを拡充した。1万2000冊の蔵書で知られるマンガ銭湯・梅の湯のオーナーが手掛ける銭湯だけに、そこにはマンガがぎっしりと並ぶ。スペースの都合により梅の湯ほど冊数は多くないが、それでも銭湯としては滅多に見られないほどの冊数だ。

ロビーにはマンガがずらりと並ぶ

オリジナルのれんが掛けられた男湯の入り口

脱衣場は、男湯がシックな色合いで統一されロッカーの扉には金魚が描かれている。女湯は明るい色調で、こちらのロッカーには桜が描かれている。

明るい色調の女湯の脱衣場

浴室は男湯と女湯で造りが異なるが、いずれも大浴槽はぬるめで、バイブラバス、リラックスバス、ジェットエステバス、電気風呂を設置。

薬湯は少し熱めで、こちらは天然鉱石を使った「バドガシュタイン風呂」となっている。浴槽に金属製のいすのような筒が沈められており、いったいなんだろうと思ったら、その中に鉱石が入っているとのこと。なんでもオーストリア産のバドガシュタイン鉱石が放出する微弱なアルファ線が人体の免疫力や回復力を活性化させる効果が期待できるそう。脱衣場に掲示されている「バドガシュタイン鉱石」の説明文を読めば、なんとなく体調がよくなったような気もする(!?) そのほか、サウナと水風呂が用意されており、浴室はコンパクトながらも充実の設備だ。

男湯の浴室。大浴槽にジェットなどが並ぶ

女湯の浴室。奥の左側にサウナがある

女湯のバドガシュタイン風呂

サウナの温度は男女共通で80℃ほどだが、上のほうに座るともっと熱く感じる。汗が適度に流れたところで、サウナ室の前にある水風呂へ。浴室内には「整いいす」も用意されていて、サウナ、水風呂、整いいすのループで温冷交代浴を堪能できる。入浴したのは平日夜の早い時間だったが、サウナを利用する若い人が多く、昨今のサウナブームを実感した。

熱せられた木の匂いがサウナ好きの心をくすぐる

男湯の水風呂(手前)とバドガシュタイン風呂

湯上がりは前述のマンガが並んだロビーでくつろげるが、玄関脇には喫煙室も用意されている。銭湯の施設内は全面禁煙となっているが、こういった完全分煙の喫煙室がある銭湯は珍しいので、湯上がりの一服を求める愛煙家にはうれしい気遣いだろう。ちなみに喫煙室にもマンガを用意しているほか、テレビも設置しているので、禁煙のロビー同様にリラックスできる。

完全分煙の喫煙室にもマンガとテレビを設置

さて、リニューアルオープンは冒頭で紹介したとおり2020年1月。直後からコロナ禍に見舞われて、さぞ大変だったはず。オープンから店を切り盛りしてきた店長さんは去年を振り返って「コロナ禍対応も試行錯誤の繰り返しで大変でしたが、お客様から見えない所では、お湯を沸かすためのさまざまな機械が経年劣化しており、何回も故障して突然休業する事になり、ご迷惑をお掛けしてしまいました」と苦労を語る。
とはいえ、フロントではTシャツや入浴剤の販売、スマホの充電器のレンタルなど徐々にサービスを充実させてきた。グッズ販売をさらに増やしていく予定とのことで、今後の取り組みが楽しみだ。

桜湯のように約2年も休業していた銭湯が復活するのはかなり珍しいケースだが、これを前例として、オーナーチェンジによる銭湯の営業継続が増えることが期待される。

こぢんまりとして心落ち着く駅チカ銭湯、気軽に立ち寄ってみたい。
(写真・文:編集部)


【DATA】
府中湯楽館 桜湯(府中市|府中駅)
●銭湯お遍路番号:府中市 7番
●住所:府中市宮町1-23-3
●TEL:042-319-0043
●営業時間:16~23時
●定休日:無休
●交通:京王線「府中」駅下車、徒歩3分
●ホームページ:https://public-bath-597.business.site/
●Twitter:@UmenoyuSakurayu
銭湯マップはこちら

※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

かわいいオリジナル桶

浴室にはリンスインシャンプー&ボディソープを設置

桜湯と梅の湯のオリジナルTシャツを販売中

フロントにはスマホ用充電器のレンタルも用意

ラグビーの町“府中”らしく、日本代表のリーチ・マイケル選手のサインボールがフロントに飾られている

入り口に銭湯ミニチュアコレクションのカプセルトイを設置