全国から観光客が押し寄せる新名所、東京スカイツリー。そのすぐそばで営業する大黒湯を訪ねた。2014年4月にリニューアルし、和モダンな外観が目をひく銭湯だ。東京スカイツリー人気にあやかって、銭湯にも好影響があったのでは?
「それが2012年に東京スカイツリーができたあたりから、この辺りの再開発が増えて古い家が次々になくなり始めたんです。それで常連さんたちが引っ越してしまって……」と話すのは、ご主人の新保(しんぼ)卓也さん。
減ったお客さんを取り戻そうと、日替わりの薬湯を始めたり、井戸水を調べてもらい新たに温泉認定(※弱アルカリ性メタケイ酸泉の温泉だった)を得たりと様々な努力をしてみた。しかし、マンションが増えても若いお客さんが増えるわけでもなく、昔からの常連さんは減る一方……。そんなこともあって、昨年リニューアルを決意した。
「リニューアルにあたっては、妻と人気がある入浴施設を100軒以上回りました。その中でうちの店に合う設備はなんだろう? と考えてできあがったのが今の店です」
浴室へ足を踏み入れてみると、現れたのは左右の浴室をまたぐように描かれた巨大な富士山の背景画。それも珍しい金色だ。「改装にあたって、宮造り銭湯のよいところはそのまま活かし、新しいものを取り入れるようにしました。だから、富士山の背景画も欠かせませんでしたね。今年5月に描きかえてもらった富士山が金色なのは、中島盛夫さん(背景画絵師)のマイブームみたいです(笑)」。
2つある浴室はそれぞれ設備が異なるため、両方楽しんでもらいたいと男湯・女湯が日替わりになっている。
まずは正面向かって右側の浴室から見ていこう。浴室の奥からスーパージェット、ボディマッサージ、座風呂、露天風呂、日替わりの薬湯、炭酸泉、水風呂、サウナと並ぶ。今回のリニューアルを機に作った今流行の炭酸泉は、すいぶんと浴槽が大きい!
「自分が他の店で炭酸泉を体験してみたら、とても気持ちよかったんです。お客さんの人気もあるし、大きいの作っちゃえ、と。炭酸も少し濃い目にしてあります(笑)。コストはかかりますが好評ですよ」
浴室からは2階へ続く階段が。登ってみるとなんと開放感たっぷりのウッドデッキスペース。見上げればスカイツリーも見える。まるで隠れ家のようだ!
次に反対側の浴室へ。スーパージェット、ボディマッサージ、座風呂、バイブラ、日替わり薬湯、歩行浴、水風呂、遠赤外線サウナと、これだけでも充実の設備。しかし驚くのはまだ早い。扉を開けて一歩外に出てみると、そこにはリニューアルで設けられた巨大な露天風呂。屋根のついた浴槽に体を横たえてみれば、正面にドンと東京スカイツリーが見える。「夜はライトアップされた東京スカイツリーを見ながらの入浴も、また格別です」とご主人。右側には水風呂も用意されている。
さらには銭湯では珍しい、塩が使えるスチームサウナは、漢方の薬草を使った蒸し風呂になっている(塩はフロントで販売)。
そして露天風呂の脇にある階段を登った先には、反対側の浴室よりも一回り大きいウッドデッキ。なんとハンモックも置かれている!「ハンモックは今年5月から置いているんですが、大人気です(笑)」。こちらのウッドデッキからは、東京スカイツリーと大黒湯の煙突が並び立つように見えるのがおもしろい。
ちなみに両方の浴室で行っている日替わりの薬湯は、なるべく「生」の素材を使うようにしている。例えば、母の日は中国の花茶、節分には大豆や豆乳、そのほかセロリ、唐辛子、グレープフルーツ、レモンバーム、宮崎マンゴーなど、他店では見られない豊富なバリエーションには驚くほかない。これら薬湯の予定表は、店頭で配布しているチラシのほか、お店のホームページ(http://blog.daikokuyu.com/?cid=5)でも公開している。
これだけの設備とサービスが日替わりで楽しめ、しかもお湯は温泉となればお客さんはさぞかし増えたのでは?
「それが、リニューアル直後はお客さんの反応もパッとしなくて。炭酸泉も最初は知らない人が多くて“なんだ、このぬるい湯は…?”なんて感じでした」。
それが、徐々にリニューアルの評判が広まるに連れ、お客さんが増え始めた。それも今まで少なかった小学生や家族連れを初めとした、若い世代が増えたという。「子ども達にお風呂屋さんに来てもらわないと、次世代につながらないのでうれしい」とご主人。また、近所の新築マンションに住む人がわざわざ入浴しに来てくれたときは、銭湯の価値が認められたようで本当にうれしかったそうだ。
また、東京スカイツリー観光のついでに寄るお客さんも増え、春休みや夏休みには、駐車場に並ぶ車のナンバープレートは全国津々浦々に渡るようになった。これはホームページやSNSなどで情報発信していることが大きいようだ。ちなみにお客さんの協力を得て、ホームページでは英語とフランス語も掲載している。「公開して1週間ほどで、そのホームページを見た外国の観光客の方が訪ねて来てくれたので、びっくりしました(笑)」。
お店のロビーには、お客さんが入浴の感想を自由に書けるノートが置かれている。記入しているお客さんは年齢・性別・国籍も様々だが、皆大黒湯に感激していることがわかる。入浴した際には、ぜひ感想を一筆残しておきたい。
東京スカイツリーの出現により大きく様変わりした町で、見事な復活劇を果たした大黒湯。地域住民のみならず国内外からもお客さんをひきつける、その魅力をぜひ確かめてほしい。
(取材・文:編集部)
【DATA】
押上温泉 大黒湯(墨田区|押上駅)
●銭湯お遍路番号:墨田区31番
●住所:墨田区横川3-12-14
●TEL:03-3622-6698
●営業時間:平日15〜24時、土曜14時〜、日祝13時〜
●定休日:月曜(祝日の場合は翌日休)
●交通:東京メトロ半蔵門線・東武伊勢崎線、都営地下鉄浅草線・京成押上線「押上」駅から徒歩6分、総武線「錦糸町」駅から徒歩12分、東京スカイツリーから徒歩10分
●ホームページ:http://daikokuyu.com/
銭湯マップはこちら
※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、予め御了承ください。