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1）長谷川さんによる「新生・千代の湯」ができるまで
「やって後悔するより、やらない後悔のほうが大きいと思って」
脱サラして店長になることを決心したのは、それに尽きると長谷川さんは言う。
「自分ではない誰かが店長をやるとしたら？ と考えたら……もう我慢できなくて」と、笑った。
フロントでお客様を迎える長谷川さん
長谷川さんの店長就任は、二人の人物との出会いが大きな鍵となっている。
一人目は千代の湯と同じ荒川区にある「梅の湯」3代目の栗田尚史さん。栗田さんは20代にして梅の湯を継ぎ、大規模リニューアルを手掛けた。豊富な温浴設備だけではなく、老若男女に対応する細やかなサービス、町づくり活動の拠点としても活用されていることなどから、「コミュニティ銭湯」のモデルケースとして紹介されることも多い。
そんな梅の湯を、イチお客として満喫していた長谷川さん。何気なく参加した、梅の湯での「町づくりワークショップ」で主催者の栗田さんに出会った。銭湯の話に限らず、幅広いビジョンをもつ栗田さんに長谷川さんは魅了されていった。梅の湯に浸かりたい気持ちと、栗田さんと話す楽しさとで、気づけば日曜の朝風呂の常連客となっていた。
そこで転機は訪れる。梅の湯で、朝風呂後の清掃スタッフを募集していると情報が入ったのだ。「ピン」ときた、という長谷川さん。というのも、ちょうど転職を検討していたのだ。銭湯に転職するつもりは当時なかったが、職について考える機会として、大好きな銭湯を知る機会として、清掃スタッフはチャンスと考えた。
「結局、銭湯が好きなんですよね。清掃すれば、無料で梅の湯に入浴できる！ と思ったところもあります」と笑う。こうして栗田さんとの出会いから、荒川区の銭湯と本格的に携わる日々が始まった。
二人目の出会いは、千代の湯の先代の女将さんだ。ご主人が体調を崩され、一人で切り盛りを余儀なくされていた女将さんの大変さを知ったことを機に、栗田さんが清掃の手伝いを始めた。
梅の湯の清掃を始めていた長谷川さんも、そこに参加。清掃の手伝いは、千代の湯への愛着を募らせることとなった。常連さんから愛されるトゴールの湯の魅力も、改めて実感した。そんなある日、女将さんから「銭湯運営に興味がないの？」と聞かれる。
「長谷川くんが、千代の湯、やってくれたらいいのに」と、冗談っぽく言われもした。こうして静かに抱いてきた「千代の湯をなくしたくない」思いは、より具体的な行動へと変わっていった。
その思いは栗田さんも同じで、先代の女将さんが結んでいたオーナーとの賃貸契約を引き継ぐ決断をした。これにより長谷川さんが千代の湯の店長として携われる可能性も出てきた。銭湯経営を続けてきた心強い栗田さんの存在、女将さんの言葉、それらに後押しされながら、長谷川さんは最も悔いのない選択として「千代の湯店長」を選んだのだ。
湯上がりのドリンク。千代の湯ならではの、珍しい銘柄も揃えている
2）千代の湯は進化し続ける
運命的なタイミングと出会いが重なってできた、新生・千代の湯。2022年4月には引き継ぎから1周年を迎えることができた。そして今も地道に、新規ファンを増やしている。長谷川さんや栗田さんの思い切った決断に心動かされた人も多くいるであろう。しかし継続してお客様を捉えて離さないのは、千代の湯という場が毎日進化し続けるからだ。飲み物の配置、読みやすいPOP、利用者からは見えにくい溝の掃除、そんな小さなアップデートを継続することは長谷川さんの信条だ。
「誰も気づかない変化でもいいんです。でも、それが重なると“なんか心地いいね”とか、“なんか楽しい銭湯”になるって信じています」
これからも千代の湯の進化に目が離せない。そしてぜひ実際に訪れて、変わらないトゴールの湯と進化を愉しんでもらいたい。
＜千代の湯フォトギャラリー＞
入り口が奥まっているため、のぼりや看板でPR
開店前の準備をする長谷川さん
入り口の赤い壁がポップでかわいい
女湯の特権は「日差し」。日中や朝風呂では、柔らかな光を存分に楽しめる
女湯の脱衣場
丁寧に清掃された浴室内
他の浴場から引き継いだ「アイスクリームクーラー」
使い勝手のいいオリジナルサンダルも
（写真・文：銭湯ライター 銭湯OLやすこ）
【DATA】
千代の湯（荒川区｜荒川遊園地前駅）
●銭湯お遍路番号：荒川2
●住所：荒川区西尾久5-22-14（銭湯マップはこちら）
●TEL：03-3893-5439
●営業時間：14時～24時、土曜は8時～12時も営業
●定休日：木曜
●交通：都電荒川線「荒川遊園地前」駅下車、徒歩5分
●ホームページ：http://arakawa-sento.jp/千代の湯/
●Twitter：@chiyonoyu1010
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