「WEB1010」も4度目の登場、三遊亭ときんです。

今回は北千住の駅近にある銭湯の取材ということで、大変に張り切っております。巨大な駅前にあるあの銭湯、見覚えがありますよ。10階建てのビルでね、一度入ってみたいと思っていたので胸も高鳴ります。北千住の改札を出て見上げる看板。ここだ!

エントランスの受付嬢に「銭湯の取材に来ました」「当店にそのような施設はございません」
ん? そんなはずは……確か銭湯が、1010が……あれ? 表に出て再度見上げてみる、0101って書いてある。イヤ、OIOI、マルイ? 何処だ?! 銭湯!

東口から徒歩1分。今までの経験上初の、これほど大きな駅が最寄りで、しかも最短距離にある銭湯。背伸びをすれば高架ホームが見えるほどの位置に、通りに面して堂々と鎮座まします宮造り建築。ここが今回紹介する「梅の湯」さん。よくこの距離でこの形で銭湯を残してくれました。奇跡!

ちょうどこの日は、デイサービスの皆さんの入浴日ということで、13時頃には既にお湯が沸いておりました。ご挨拶も早々にご主人が「お風呂入ります?」「いいんですか?!」「どうぞどうぞ、今日は沸いてますから」とご厚意にすっかり甘えて早速お湯を頂戴することに。取材から入浴までも最短時間。

広いお風呂を独り占めにしているぜいたくさで、天窓から差す昼下がりの陽光がゆったりと時間を移ろわせ、実に心地よい。今回は特別に湯船から見える風景を何枚か。こんなふうに見えますよ。入ってる気分になれますか?

浴槽から見た風景

雄大な富士山を見上げれば気分そう快!

現在のペンキ絵は2020年6月に描かれたもの

ペンキ絵はオーソドックスな富士山。2、3年に一度描き変わるので気が付けば風景が変わってるなんてことも。ペンキ絵は銭湯絵師・中島盛夫さんの手によるもので、JRの駅などに貼り出された銭湯ポスターにも登場した有名な富士山ですから、ぜひ一度会いに来ていただきたい。

中島盛夫さんの手による富士山のペンキ絵

天窓からの差し込む陽の光が浴室を照らす

頭越しの梅の湯富士

お湯は、肌触りのよいしっとりと感じる穏やかな水質。それは質のいい水を汲み上げ沸かしてるから。浴槽はシンプルな二槽構造、左側の広いほうには格子の向こう側から鉱石の間を縫ってお湯が注がれるアレ。正式な名前は知りませんアレ。私の好きなアレ。右側の深い槽のエアーも勢いよく噴き出てふくらはぎや腰を心地よくほぐします。ずっと浸かっていたい、ヒーリングスポット梅の湯。

浴槽はシンプルに2つ

鉱石を通って浴槽にお湯が注ぐ

店内を見回してみて感じるのは清潔。とにかく清潔。奇麗なんですよ、全てが。浴場内は凛とした空気が満ちてます。建物は歴史がありますが、隅々まで手入れが行き届いているので全く古さを感じません。そして脱衣場にさり気なく置かれている体重計や通称「お釜」といわれるドライヤー、「貴重品に注意」云々の看板等、レトロな品々がまるで僕らを昭和へタイムスリップさせるような気分にします。「“THE銭湯”みたいでいいでしょう? 雰囲気があっていいかなと思ってそのままにしてます」とご主人。

掃除の行き届いた洗い場

整然と積み上げられた椅子と桶

歴史を感じさせる脱衣場も掃除が行き届いている

レトロな体重計はよく見るが、木製の身長計は珍しい(!)

歴史的な雰囲気を維持しつつも現役。そう、例えるなら、観光用で走ってるSLのような、わかるかなー、わかんねーだろーなー、シュビドゥビダバダイエーイ。そういえば、松鶴家千とせ師匠も足立のお住まい。

おそらくバブリーなころなら真っ先に目を付けられたであろう一等地の銭湯を大事に守っているのは、自分の代で終わらせたくないという3代目の矜持から。脱サラして継いだくらいですから、その覚悟は並々ならぬものがあったと思います。

のれんを守る3代目の梅澤幹雄さん

梅の湯さんのお客様の特徴の一つは、途中下車して入りに来るサラリーマンが多いこと。商圏が北千住経由の沿線に及ぶから、これは強い。広い範囲の皆様に愛されております。会社帰りにフィットネスジムに通う感覚でひと汗流すなんて、極上のリフレッシュ法ではないですか? 500円そこそこで。それに加えて、近所に高校や大学が数校あり、部活帰りや文化祭の泊まり込みの際などに学生さんも使ってくれるとか。

最近は子供さんが銭湯へ来るきっかけがなかなかない中で、先輩たちが親代わりとなって、銭湯のマナーや人付き合い、コミュニケーションを後輩たちに教えてくれてるとか。心強い話じゃありませんか。集団生活がスムーズに行くように、なんとなく皆が持ち合わせる共通ルール、学校で教えないことを銭湯が請け負ってる面もあるのです。

ただ、時代的に他人に細やかなことを注意できないがために、慣れてないお客様がマナー違反をしてしまうことも多いようで、「銭湯の入り方を知らなくて、海パン履いて入ってた子もいたよ」と、笑いながらおっしゃるご主人。かつては周知を兼ねて授業の一環で銭湯の入り方の課外授業もあったほど。これも時代でしょうか。

銭湯も多様化の時代の中で、アトラクション的なお風呂も大いに結構ですが、ノスタルジーに浸ってホッと素に戻れる稀有な時間を提供できる梅の湯。あわただしく人が行きかう北千住駅とのコントラストが印象的でした。

「未経験の方は敷居が高く感じるかも知れないけど、入らないとよさがわからない。中でわからないことがあればなんでも聞いてほしい」
「体を温めるのはいいこと。銭湯のお湯は汗のかき方が違う。寝るまで冷めない、ぜひ一度体験してほしい」
ご主人の熱い思いが今日も多くの人を癒します。

「梅の湯」と掛けまして、「お気に入りのジャンバー」と解きます。
その心は「温かくて、また来(着)たくなるでしょう」
(文:落語家 三遊亭ときん


【DATA】
梅の湯(足立区|北千住駅)
●銭湯お遍路番号:足立区 15番
●住所:足立区千住旭町41-11(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3881-6310
●営業時間:平日16~23時半、土日祝は23時まで
●定休日:不定休
●交通:東京メトロ日比谷線「北千住」駅下車、徒歩1分
●ホームページ:https://adachi1010.tokyo/archives/482
●Twitter:@1010umenoyu

※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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