銭湯の浴室には景色がある。浴槽から眺めたその景色は至福の景色。
この連載は、銭湯OLやすこが、銭湯の浴槽内から撮影した写真を中心にご紹介する「浴槽から眺めた景色がとっておきな銭湯」がテーマです。銭湯の写真は浴室全景がわかるものが一般的ですが、ここでは浴槽から眺めた浴室の風景を紹介します。
温かなお湯に浸かっている至福の時間。その魅力を少しでも感じていただければ幸いです。
※紹介する写真はすべて許可を得て撮影しています。
〈年中イルミネーション銭湯〉
ここは……銭湯? それとも幻想の世界?
浴室の戸を開けた途端、イルミネーションに包まれて、誰もがそう疑う。と同時に、こんこんと湯をたたえた浴槽が目に飛び込む。ここは銭湯。狛江市にある「お湯どころ野川」さんだ。
〈「イルミ浴」の世界へようこそ〉
お湯どころ野川さんは、ロビーから脱衣場、浴室、そして露天風呂までがイルミネーションで彩られている。つまりお湯並みに光のシャワーを浴びることができるのだ。まさに「イルミ浴」。
やわらかなお湯だけではなく、光にも包まれると……なんとも心地いい。イルミネーションは「冬の風物詩」や「カップルデートの定番」として語られがちだが、なんのその。こうして季節を問わない、万人へのリラクゼーションとして堂々と存在しているのだ。
そんな「イルミ浴」の癒しを、写真でご紹介したい。
<イルミ浴の先には、おとぎ話の森>
※お湯どころ野川では「ラベンダーの湯」(玄関から見て右側)と「水芭蕉の湯」(同左側)の浴室があり、毎日男女が入れ替わる
浴室壁面には、森が描かれた「タイル絵」が大きく広がる。元は風光明媚な景色を描いたタイル絵のはずだが、キラキラ越しに眺めると、「おとぎ話の森」に見えてくる。
森を眺めながらつかるのは、まず白湯。薪で仕込んだやわらかいお湯は、温度も熱すぎずじっくり入ることができる。もしかして壁面の森で、木こりが切ってきた薪なのだろうか……と妄想が膨らむ。
さらに、ジェットバス3種に加え、電気風呂など機能系お風呂も充実。「水芭蕉の湯」にあるリボーズバスはあおむけでつかるため、イルミ浴には最適なポジションだ。
<外気を感じる、イルミ浴>
外気を感じると、より輝きに敏感になれる気がする。そう気づかせてくれるのが、露天風呂のイルミネーション。露天風呂は浴室によって配置が異なるため、それぞれの個性は少し異なる。
「水芭蕉の湯」の露天は、旅館風の岩風呂。ゴツゴツした肌ざわりを楽しみつつ、ガラス窓から浴室内のイルミネーションも見えるという2度おいしい造りだ。
一方、「ラベンダーの湯」では悠々とそびえ建つ煙突を眺めることができる。風呂好きとしては、煙突を眺めながらつかれるお湯ほどありがたいものはない。かつてはこの煙突にもイルミネーションを飾っていたそうだが、安全性に配慮して現在は休止中とのこと。輝きの向こうに見えるワイルドな煙突も絶妙にカッコいい。それぞれ異なった醍醐味を満喫したい。
<イルミ浴のととのい>
イルミ浴の世界はまだまだ続く。12人ほど入れる広いサウナ室は、しっかりあたたまる遠赤外線サウナ。テレビもあるが、「水芭蕉の湯」のほうは浴室のイルミネーションを眺めることもおススメ。ガラス戸にぼんやりにじむ光は、さらにやわらかさを増し、また違った趣だ。
しっかり冷えた水風呂も、サウナの近くに完備。冷たさにドップリと体を沈められるような……言葉にできない没入感が得られる。
以上のように、全てのスペースでイルミ浴が楽しめる。そこには何のさまたげもなく、ただただ光が疲れた体を癒してくれる。もちろんカランで体を洗っている時さえも。この体験は、他の浴場では到底体験できない。いや、日本中でもこのような全身でイルミ浴ができる場所はここ以外にないだろう。
〈イルミネーション銭湯が生まれたワケ〉
お湯どころ野川さんは創業時から、イルミネーション銭湯だった訳ではない。代表の成瀬隆幸さんが、10年程前に「なんとなくのマンネリ」を感じていたことがきっかけだった。とはいえ、27年前にリニューアルし設備としては充実している。そこで思いついたのが「イルミネーション」だった。
「“明かり”って、それだけで気分が変わるでしょう。そうしたらもっと、お風呂が楽しんでもらえると思いました」
手始めに遠くからでも見えるようにと、煙突にイルミネーションを施した(前述の通り煙突の装飾は現在休止中)。早速、常連さんから反響を受け手ごたえを感じた成瀬さん。続いて露天風呂も装飾し、地道にイルミネーションを増やしていった。「お湯につかりながら、奇麗な景色が見れてうれしい」という評判は評判を呼んだ。こうして何度もバージョンアップを重ね、現在のきらめくイルミネーション銭湯が誕生したのだ。
ちなみにイルミネーションのメンテナンスは定期的に実施。大規模なメンテナンス時は、足場を組んで電飾を外すことから、ペンキの塗り替え、装飾まで含めると約4日かかる。それらを全て成瀬さん一人で作業されるそうで、そう聞くとなおさらイルミネーションがありがたく感じられてくる。
銭湯というかけがえない場所に、イルミネーションというもう一つの魔法。多くのお客様が、お風呂以上のものを得て帰宅していることであろう。お客様の湯上がりの感想が、いつも励みになるという。
「美しさって、人をひきつけますから。イルミネーションのおかげで、自分がいて楽しいと思える空間になりました」
至極のイルミ浴に、こんなに熱い思いが込められているのだ。
また成瀬さんと一緒にお湯どころ野川を盛り上げるのは、看板猫の「うるめ姐さん」。フロント前で運が良ければ写真におさまってくれるかも。イルミ浴以外の楽しみまであるお湯どころ野川さん。ぜひ訪れてみてほしい。
(写真・文:銭湯ライター 銭湯OLやすこ)
【DATA】
お湯どころ野川(狛江市|喜多見駅)
●銭湯お遍路番号:狛江市 2
●住所:狛江市東野川1-30-14
●TEL:03-3488-2642
●営業時間:17時~24時(最終入店23時半)、日曜・祝日は15時から営業
●定休日:月曜 ※祝日の場合は翌日休、隔週で月・火曜は連休(月曜が祝日の場合は火曜・水曜連休)
●交通:小田急線「喜多見」駅下車、北口徒歩10分(狛江市立三島保育園前)
●ホームページ:――
●Twitter: @oyudokoronogawa
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