【浴室には景色がある】
銭湯の浴室には景色がある。浴槽から眺めたその景色は至福の景色。
この連載は、銭湯OLやすこが、銭湯の浴槽内から撮影した写真を中心にご紹介する「浴槽から眺めた景色がとっておきな銭湯」がテーマです。銭湯の写真は浴室全景がわかるものが一般的ですが、ここでは浴槽から眺めた浴室の風景を紹介します。
温かなお湯に浸かっている至福の時間。その魅力を少しでも感じていただければ幸いです。
※紹介する写真はすべて許可を得て撮影しています。
今回ご紹介する平和湯さんの入り口は、住宅街に挟まれた路地を数歩進んだ奥に位置します。その路地は営業時間中は沢山の自転車が置かれ、その先の賑わいを予感させる景色があります。わりと中は暗めなのかな……という想像をしがちですが、ところがどっこい。この奥に続く、とっておきな浴槽レポートをお届けします。
【1】なだらかな天井に陽の光が差し込む景色
平和湯さんは浴室の採光に配慮した造りであるため、日中の浴室には高い天井から優しい陽の光が差しこみます。むしろ光に恵まれた浴場と言えると思います。早速、主浴槽へ。
まず、湯船で腰を下ろす最中に眼に飛び込むのは、天井のゆるやかなアーチ曲線。東京でよく見られる銭湯の湯気抜き天井は、直線の形状が多いので新鮮です。
お湯の温かさがジワーッと身体に馴染んでゆく時……、ゆるやかな曲線は視覚的にも気持ちをほぐしてゆく気がします。きっと視線がこの曲線をなぞっているのかもしれません。そして思わず、曲線に向けて手を伸ばして、自分も陽の光を一緒に浴びようとしてしまいます。こうしてゆくうちに身体はホカホカ。なんて理想的なひとときなのでしょう。
実はアーチはお店の入り口にも取り入れられており、ゆるやかで優しい曲線は平成2年に行われたリニューアルの際、2代目のご主人(故人)が建築士さんとこだわって作ったのでは、などと思いを巡らせます。
【2】物語の主人公になれる壁面。2つの浴槽から
アーチ天井を見ながら身体を温めた後は、平和湯さんの象徴でもあるタイル絵を堪能します。実はこちらはタイル絵を鑑賞できるスポット尽くし。
①水風呂と一緒に向き合う、夢の壁
まず、タイル絵も含めた平和湯さんの空気感を全て鑑賞できるベストポジションは、水風呂です。
水風呂からご覧頂きたいのは、やっぱりタイル絵。
女湯も男湯もおとぎ話に出てくるような可愛らしく、どこか懐かしいデザイン。現実にありそうな景色なのに、どこか非現実的で優しい「夢」を見せてくれているように感じるのは私だけではないはずです。ちなみにこの壁面をセレクトしたのも、2代目のご主人だそうです。平和湯さんという名前に相応しい、まさに心の平和を象徴するような壁面です。
筆者は気持ちがトゲトゲしている時、細かいことは考えずに、水風呂と一緒にこの壁に向き合います。自分の中の忘れかけた童心が戻ってくるような気がして。
さて、この水風呂からの景色。まず水風呂自体がニクい場所に配置されているのです。それは、温かい浴槽から離れたサウナの正面。入り口に近いのです。そのため水風呂からは、天井のアーチも、反対側のタイル絵の雰囲気も「全部入り」で楽しめます。なんて贅沢なスポット。水風呂が苦手な人も、ちょっとだけ長く浸かれたりして。
「平和湯」という屋号のように、ここで味わえるのはまさに平和な気持ち……
②夢の世界の一歩手前のベストポジション
次はお湯に浸かりながらじっくりタイル絵の世界に入り込めるベストポジション。それは、逆L字形になっている温かい主浴槽の「飛び出し部分」です。
ここで浸かっていると、もう夢の世界に入って行けそうな気がしちゃいます。もちろんお湯の心地よさも相まってですが、冷静に考えると、浴槽内の色合いと壁面タイルの色合い(水色)がさり気なくリンクしているからかもしれません。リニューアル当時「あまりゴチャゴチャしすぎないようにしよう」と2代目がおっしゃっていたとか。この徹底した世界感を見ると納得です。
【3】夢の世界は実力派!
ここまでは浴槽からの景色がメインでしたが、実は平和湯さん、お湯も実力派。
まず、主浴槽は「人工温泉 トゴール湯」。なんと準天然温泉なのです。
平和湯さんは地下130mから汲み上げた地下水を木材で沸かし(時々重油)、風化鉱物トゴール・ウオームタイトを通すことで準天然温泉を生み出すという贅沢なお湯づくりをしています。トゴール湯の効能は神経痛、リウマチ、肩こり等で、医薬部外品承認を受けているそうです。
このトゴール湯は、現在、都内でもたまに見かけますが、なんと平和湯さんが全国の銭湯で一番に取り入れた先駆者。
介護施設を視察された時にその存在を知り、効能等を勉強し、常連さんの「湯治」に役立てられればという想いからスタートしたそうです。誰かを想う気持ちでできている……。そう思うと、このお湯がよりありがたく感じます。そして、いつ行っても湯上がりの汗が止まらないほど温まるのは、このお湯の効果でしょう。
この他にも、薬湯は日替わりで、日曜は「ラベンダー湯(乾燥ラベンダー)」等、天然素材を取り入れる工夫をし、いつ訪れても変化を感じる素敵なお湯の工夫がなされています。こうして浴槽の絶景はもちろんのこと、お湯の工夫も相まって、お客さまの平和が生まれてゆくのですね。
とにかくどこを取っても、気持ちのいいお湯、気持ちのいい景色。タイル絵を含むリニューアルを平成2年に行って以来、浴槽のみならず、タイル絵の清掃もこまめに行っていることがよくわかります。
そしてフロントでは、お母様、3代目ご主人と奥様が元気に迎えてくださいますよ。ぜひ、あなただけの「平和・湯タイム」を体験してみてください。
(写真・文:銭湯ライター 銭湯OLやすこ)
【DATA】
平和湯(北区|王子神谷駅)
●銭湯お遍路番号:北区 13番
●住所:北区神谷3-41-13
●TEL:03-3901-5660
●営業時間:15~24時
●定休日:金曜
●交通:東京メトロ南北線「王子神谷」駅下車、徒歩7分
●ホームページ:–
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