2011年に若手建築家や建築を学ぶ学生を中心に結成され、文京区の魅力を発掘し発信する活動を行っているグループ「文京建築会ユース」。これまでに文京区内にある狛犬、団子屋、銭湯などをテーマとして取り上げてきました。なかでも銭湯については、「ご近所のぜいたく空間“銭湯”展」と題する展示を、会場を変えながら数度にわたり行うなど特に力を入れています。今回は「文京建築会ユース」の代表をつとめる栗生はるかさんに、その活動内容についてうかがいました。
■見過ごしがちな地域の魅力を再発見する
2011年に活動を開始した「文京建築会ユース」には、文京区在住・在勤の学生から建築・デザイン・イベント関係の社会人まで、約20名ほどが参加しています。建築や都市について学んでいる私たちにとって、家やビルを建てることだけが役割ではなく、自分の身の回りの環境をより豊かにする、丁寧に向き合うことも重要だと思っています。なので、まずは自分たちの身の回り、文京区から地域に眠っている様々なコンテンツをテーマごとに掘り起こして網羅的に調査、新たな切り口で発信する。その様々な発見が積み重なっていったときに、地域の魅力が奥行きのある「文京区らしさ」として浮かび上がってくるのでは……という期待のもと、活動を続けています。
2012年には、文京区内に神社仏閣が多いことから、約60体の狛犬を調査しました。狛犬の写真を撮り、大きさを測って記録したり、地図を作成したり……。自転車を使い1日で回るのはかなり大変で、そこで脱落するメンバーもいました(笑)。
また、文京区内で販売されているお団子を集めて、重さ・長さ・幅・団子の数・柔らかさなどの細かい調査も行いました。普通の人がやらないことを徹底的にやるという……。まあ、やるなら徹底してやったほうが面白いですから(笑)。これらの調査は、文京区のミニコミ誌「KUU(空)」の連載で紹介しています。狛犬調査では大きさが比べられるポストカードを作ったところ、好評でしたね。文京区役所の観光案内所や文京建築会ユースのホームページから購入できます(笑)。
■銭湯の調査で、ある店の廃業を知り……
そんな活動を行っていくなかで、次に注目したのが銭湯。文京区には、その当時(2013年)10軒の銭湯があったんですが、調査するうちに千石にある「おとめ湯」が廃業を決めていることがわかりました。富士山の溶岩がある中庭は手入れが行き届き、店内もピカピカに磨き上げられている。築60年とは思えない、贅沢で素晴らしい空間がなくなるのに黙っていられない。そんな思いから、せめて記録に残そうと詳しい調査を始めたんです。
何度も訪ねて、お店の実測、看板の拓本、深夜の掃除取材、地域の方々やご主人へのインタビューなどを行い、「おとめ湯」にまつわる記録を蓄積。それと同時に区内にある全銭湯の取材も実施しました。
そうして集めた素材から展示物を作成し、2013年6月に文京シビックセンターで展覧会「ご近所のぜいたく空間“銭湯”展」を開催しました。
実寸大の唐破風屋根の写真パネル、おとめ湯の実測図、文京区の各銭湯のパンフレットなどを展示し、4日間で1500名もの方に見ていただけるという大盛況でした。
来場者の方から「4日間で展示を終わらせるのはもったいない」というお言葉もたくさんいただいたので、その後も「ご近所のぜいたく空間“銭湯”展」は少しずつ展示内容を変えながら、カフェや図書館などでこれまで5回開催しています。
■ネット経由で資金を集め、銭湯映画も製作中
展覧会の活動と並行して、我々の活動や銭湯文化を資料だけでなく映像でも残すべきとのお話を頂き、ドキュメンタリー映画も制作中です。資金の一部は、インターネットを通じて支援者が資金提供を行うクラウドファンディングで集めました。現在も撮影は続いているのですが、監督がどんなふうに編集するのか楽しみです(笑)。
そのほか、古い銭湯には老朽化対策のアドバイスを行ったり、文京区に新たに引っ越してきた人のために不動産屋で銭湯の無料ご招待券を配布してもらう活動も行いました。昨年秋には文京区の銭湯を紹介する小冊子「出会いの湯」も制作。今後はインターネット上で外国語による銭湯情報の発信や宿屋との連携もやってみたいですね。
■忙しかった学生時代は、課題明けに銭湯へ行ったことも
学生時代は建築学科だったんですが、とにかく課題がハードで学校に泊り込んだことも。課題が終わってから銭湯へ行くこともありました。
文京区の銭湯を調べているときは、もちろん全部の銭湯に入りました。よく聞く言葉ですが「井戸水を沸かした湯はやわらかい」「薪だとよく温まる」というのはわかる気がします。電気風呂は心臓が止まりそうで怖いですね。よくお年寄りが入っていますけど、心臓大丈夫なんでしょうか。心配になります(笑)。
普段は仕事で疲れてくると銭湯の広い湯船につかりたくなりますね。お湯につかると疲れがスーッと消えていく。遠くの温泉に行かなくても、近所には銭湯という贅沢な空間があることをたくさんの人に知ってほしいです。
■日常に埋もれている銭湯の価値を発掘して発信
「文京建築会ユース」は、銭湯のみならず、銭湯を中心に広がる周辺地域までをその魅力として捉えています。銭湯が一つなくなることが、地域の歴史や景観、コミュニティに及ぼす影響は甚だしいものです。
文京区の銭湯と関わりを持った2013年には10軒の銭湯がありましたが、現在(2015年3月)は8軒になりました。私たちの活動も、ここ月の湯さんはじめ、文京区の現役銭湯さんたちのご協力のもと成り立っています。消えていく銭湯を記録するだけでなく、今頑張っている銭湯に人が集まるように応援していきたいですね。
今は、自分の住んでいる近所に銭湯という贅沢な空間が広がっていること自体を知らない人が多い。日常に溶け込んでしまって、その価値が見えにくくなっている銭湯の価値を発掘して、銭湯ファンを増やせたらいいな、と思っています。
(写真:望月ロウ 文:タナカユウジ)
【プロフィール】
栗生(くりゅう)はるかさん 1981年生まれ。Mosaic Designディレクター。文京区内にある埋もれたコンテンツを発掘、発信するクリエイターグループ「文京建築会ユース」代表。
文京建築会ユースHP:http://bunkyoyouth.com/
【取材地DATA】
今回のインタビューは文京区目白台にある月の湯で行われた。昭和2年ごろに建てられた風格のある宮造り銭湯だ。
月の湯(つきのゆ) 文京区目白台3-15-7 TEL:03-3943-1788
●営業時間:17~22時(日曜は16~22時)
●定休日:月、水、金、土曜 ●交通:山手線「目白」駅よりバス。「目白台3丁目」下車、徒歩2分
●『ぶらり湯めぐりマップ』14ページ4番