
1925(大正14)年に内外薬品から発売された解熱鎮痛薬「ケロリン」は、今年(2025年)100周年を迎えた。
ロングセラーを続ける薬は数多くあるものの、ケロリンが特異なのは、銭湯を利用する人なら誰もが知っている黄色い風呂桶、すなわち「ケロリン桶」を広告媒体として、昭和38(1963)年以来活用し続けている点にある。
そもそもケロリンは、昭和30年代には作詞:サトウ八チロー、作曲:服部良一、歌:楠トシエといった当時の豪華トリオによりCMソング「ケロリン青空晴れた空」を作ったり、昭和40年代にはテレビCMにコント55号を起用したりと、先進的な広告に長年力を入れてきた。平成に入ってからも、富士山のペンキ絵の前で「頭痛にオッケー! ケロリンでオッケー!」と音楽に合わせて踊るCMを憶えている人も多いのではないだろうか(音楽は近田春夫、振付はラッキィ池田というヒットメーカーコンビが担当)。
そんなケロリンが100周年を迎えるにあたり、音楽史・映画史・広告史・庶民文化史の視点からアプローチしたのが本書である。
巻頭では萩本欽一や堺正章といった芸能界の大御所も登場する。「ケロリンとどういった関係が?」と思うかもしれないが、実は本書の監修を担当した笹山敬輔氏は、内外薬品の代表取締役社長を務めながら、演劇研究者としての顔も持ち、これまでに『ドリフターズとその次代』『笑いの正解 東京喜劇と伊東四朗』など数々の著書を世に送り出してきた。ケロリンの話に加え、昭和芸能史についての貴重な証言は読み応えたっぷりで、これは笹山氏が監修した本ならではの構成だろう。
庶民文化研究家の町田忍氏、サウナ好きの壇蜜さんもインタビューに登場するほか、各分野の第一人者がテーマごとに執筆を担当。多様な視点からケロリンの魅力を深く掘り下げている。
また、ケロリン開発時の事故、戦時下の企業合同、類似品の登場など苦難の歴史に加え、平成に入ると「ケロリン桶」自体が昭和レトロの象徴となり、ブランドとして確立されていく過程も詳しく紹介されており、興味深い。
発売から100年。ケロリンが文化として根づき、歴史となるまでの歩みが詰まった本書は、銭湯を愛する人々から、ケロリングッズの熱烈なファンまで楽しめる一冊である。
『ケロリン百年物語』
監修:笹山敬輔
発行:文藝春秋
定価:1430円(税込)
120ページ・ソフトカバー(四六判)
●インタビュー・対談
トップインタビュー:萩本欽一、対談:堺正章×笹山敬輔、インタビュー:町田忍、壇蜜
●執筆者
生田誠(地域史・絵葉書研究家)、竹島靖(コピーライター)、輪島裕介(音楽学者)、泉麻人(コラムニスト)、久住昌之(マンガ家・ミュージシャン)、ラジカル鈴木(イラストレーター)、石黒謙吾(著述家・編集者・分類王)、メソポ田宮文明(イラストレーター)、石原壮一郎(コラムニスト)、佐藤利明(娯楽映画研究家)、平井敦士(映画監督)