銭湯の廃業がニュースになることが多い反面、最近は映画、ドラマ、テレビ番組などで銭湯をテーマにしたものが多く制作されるなど、プチ銭湯ブームともいえる状況だ。そんな中、考古学・歴史・美術を中心に刊行する出版社・雄山閣より『入浴と銭湯』が出版された。
内容は入浴史、浴場史、銭湯史、入浴雑考の4章に分けられている。古代の入浴と信仰の関係に始まり、仏教と入浴、さまざまな風呂の種類と浴室の変遷、銭湯史、近代の銭湯、特殊浴場と旅館、銭湯と取締りなど、内容は多岐に渡る。
近世庶民風俗研究家である著者の中野栄三氏は、「遊女の生活」「郭の生活」といった著作も出版しており、この本でも湯女風呂や遊里などについても比較的多くのページが割かれているのが興味深い。
さて、この本に登場する「風呂」が付く言葉をピックアップしてみると、
供養風呂、雁風呂、千人風呂、石風呂、釜風呂、町風呂、戸棚風呂、柘榴風呂、据風呂、飛込風呂、湯女風呂、辻風呂、五右衛門風呂、長州風呂……
と、よくもこれだけいろいろな形式やジャンルの風呂があるものだと感心してしまう。一般に「日本人は風呂好き」といわれるが、風呂が日本人の生活に密接に関わってきたことがよくわかる。
また、現在の東京都浴場組合のルーツとなる江戸時代の湯屋組合についても詳しく紹介しているほか、湯屋組合が経営者向けに出版した銭湯経営の手引書「洗湯手引草」、韻をふんだリズムのよい短文で経営方法を述べた「湯語教」、江戸の銭湯史を記した「湯屋万歳歴」などの貴重な資料も掲載されている。
「湯語教」に記された文の中には、
「湯屋磨かざれば光沢(ひかり)なし、光無きは常に客入らず」
など、現在の浴場経営に通じるものもあっておもしろい。
家庭風呂の普及が限りなく100%に近づきつつある現代にあっても、たくさんの人々が日々銭湯へ足を運んでいるが、その共同入浴や大きな風呂への渇望が、長い歴史によって育まれてきたことがよくわかる内容だ。
なお、本書の初版は1970(昭和45)年だが、本文中に「不思議なことに、大きく時代が変化する時代には浴場の流行が起こっている」というくだりが度々登場する。アメリカの大統領がトランプ氏に変わり、東京オリンピックを3年後に控えている今、銭湯ブームを予言した書となるか?
(文:編集部)
書名:雄山閣アーカイブス 入浴と銭湯
著者:中野栄三
判型:四六判/192ページ
定価:本体2000円+税
発行:雄山閣