平成5(1993)年に創刊した銭湯PR誌『1010』のバックナンバーから当時の人気記事を紹介します。


今回は「北陸3県プラス1」のブラス、福井県人の話である。関西方面から鉄道で北陸に向かうと、最初に通るのが福井県。こういってはなんだが、何もないところでうら寂しいというか寒々しいというか。特に冬など、走れば走るほど暗い印象が増してくる。東尋坊は自殺の名所といわれるが、確かにこの暗さに包まれていると、自殺など考えたことのない人でもフッとその気になるのかもしれない。

この暗さの由来は何だろうか。長い冬、深い雪、晴れる日が少ない裏日本特有の気候は富山や石川も同じだ。宗教も両県と同じで「南無阿弥陀仏」を唱える浄土真宗王国としてよく知られる。気候、宗教が同じとすれば……。

北陸人の県民性は「越中強盗」「加賀乞食」に並んで、福井は「越前詐欺」といわれる。「日本に双(なら)びなき知恵国(ちえぐに)なり」(「新人国記」)と称されるぐらいだから知恵は回るが、その回り方に問題があるらしい。情報に敏感でしたたかゆえに商売はうまい。伝統的に繊維産業が盛んで、明治以降は羽二重や人絹(じんけん)、戦後は合成繊維と常に最先端を走り、新しいトレンドに敏感に反応してきた。狡さや抜け目なさに秀でた商人魂が「越前詐欺」と陰口を叩かれる由縁だ。しかし、「自分だけがよければいい」という気質も併せ持つ点で世間の評判を落としている。こうした評価が暗さにつながっているのかもしれない。

商売上手で知恵が回る点は、会社の社長になる割合で昭和57年以降連続首位をキープし、上場企業役員の数も第3位と出世する人が多いことからもわかる。とはいえ、協調性に乏しく「自分さえよければ」に支配され、その結果総合力からすると商売下手な石川県人にさえかなわない。

ただ、福井県は日本で一世帯あたりの貯蓄が一番多い。しかし、地味な印象が災いして「暗く貯めている」印象があり、その点は富山県人に似ている。真宗王国だけに仏壇には金を惜しまないし、冠婚葬祭も派手で、総じて見栄っ張りなところはお隣の加賀似である。南西部の若狭は明るくて楽天家が多く、若狭湾が目の前に開け鯖街道で京都と結ばれていたから開放的な気質が培われていたのだと思われる。

「新人国記」によれば、「人々は各々勝手なことを考え、昨日までの友を今日は疎ましく思い、非難したり目上の人を欺いたり、自分の非をとがめられると人のせいにしてうまく立ち回り、その場しのぎをするが結局のところ失敗する」と評している。開放的なのはよいが、今ひとつ誠意が感じられない。若狭は越前ほどではないが、この部分は根っこが同じなのかもしれない、とある。福井県人の浴場経営者は東京では少数だが、出身は開放的な若狭である。

参考資料:「出身地でわかる人の性格」岩中祥史(草思社)


【著者プロフィール】
笠原五夫(かさはら いつお) 昭和12(1937)年、新潟県生まれ。昭和27(1952)年、大田区「藤見湯」にて住み込みで働き始める。昭和41(1966)年、中野区「宝湯」(預かり浴場)の経営を経て、昭和48(1973)年新宿区上落合の「松の湯」を買い取り、オーナーとなる。平成11(1999)年、厚生大臣表彰受賞。平成28(2016)年逝去。著書に『東京銭湯三國志』『絵でみるニッポン銭湯文化』がある。なお、平成28年以降は長男が「松の湯」を引き継ぎ、現在も営業中である。

【DATA】松の湯(新宿区|落合駅)
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今回の記事は2005年8月発行/75号に掲載


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