絶え間なく車が行き交う道路沿いに、ひときわモダンなふくの湯の明かりがレンズ越しに優しく光る。これから夜を迎えようとしている街に、その明かりはまるで「お疲れ様」と道行く人々に語りかけるようだ。

今回は3代目店主の村西将明さんのお話をもとに、この「ふくの湯」を紹介する。

ふくの湯は昭和47(1972)年に創業し、2011年に初めての改装を行った。この改装を機に屋号を「富久の湯」から「ふくの湯」に変更したが、これは「ふく=福」という意味で「お客様に良いことがありますように」との願いが込められている。

お客さんが少なかった改装前とは対照的に、改装後は地元のお客さんを中心に利用者は増え続けている。現在、文京区には銭湯が4軒しかなく、近隣の銭湯が廃業したため、ふくの湯がその受け皿となって、時間帯によってはかなり混みあうようになった。そのため営業時間の延長などの対策により、混み合う時間の分散を試みつつ、土日祝日は朝8時から深夜24時まで営業を行っている。そのため村西さんは、週末は店仕舞いしてから寝る間もなく開店準備を始めるそうだ。大変な作業だが「お客さんに気持ちよく入浴してもらうためです」と村西さんは屈託なく笑う。

私が初めてふくの湯を訪れて驚いたのは、2階にある銭湯だということである。改装前は3階に銭湯とは別にサウナも営業していたそうだ。昭和47年に建てられたことを考えると、当時はかなり先進的な造りの銭湯だったのではないだろうか。

2011年に今井健太郎氏の設計で改装を行い、和モダンな雰囲気に生まれ変わったが、その個性的なデザインは13年経った今でも色褪せていない。背景画は銭湯絵師の丸山清人さんと中島盛夫さんによるもので、「一富士 二鷹 三茄子」をモチーフにしている。モザイクタイルの松の絵も秀逸であり、六角形のカランと麻の葉模様のデザインも今井さんらしいデザインである。

この六角形のカランはとてもフォトジェニックながら、鏡の数が多いため、撮影時に鏡に自分が写りこんでしまわないようにするのが大変な、カメラマン泣かせのものである。無事に撮影は終えたものの、カメラマンが写りこまないようにどのように工夫して撮影したか、入浴時に想像してもらえれば幸いである。

さて、ちょうど3年前の2021年8月、文京区の江戸川橋でガス管に土砂が流入し、一部の地域でガスが数日使えなくなる事態が発生した。江戸川橋からふくの湯は、乗り継ぎを含めて電車で30分ほどかかるにもかかわらず、お風呂を求めて多くの人がふくの湯を訪れた。

村西さんはそれを見て、入浴が日々の生活でいかに重要であるか再認識し、「銭湯は何かあった時に絶対に必要なものである」と、改めて感じたという。営む人の思いを知ってからいただくお湯は、格別の温もりを感じるのではないだろうか。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
ふくの湯(文京区|本駒込駅)
●銭湯お遍路番号:文京区 13番
●住所:文京区千駄木5-41-5(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3823-0371
●営業時間:11~24時/土曜、日曜、祝日は8~24時
●定休日:無休
●交通:東京メトロ南北線「本駒込」駅下車、徒歩5分
●ホームページ:http://www.sentou-bunkyo.com/pg65.html

※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。


今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。
http://www.imadaphotoservice.com/

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