今回撮影したのは西日暮里駅に程近い道灌山の地で70年近くにわたってお湯を提供してきた千歳湯。この店を営む佐藤照子さんと息子の順也さんにうかがったお話を紹介しよう。

照子さんの義父にあたる初代の進繁(しんしげ)さんが千歳湯をこの地で創業したのは1957(昭和32)年。修行していた銭湯の屋号が千歳湯で、独立するにあたってその屋号を受け継いだという。新潟出身の照子さんが千歳湯に嫁いだのが、1970(昭和45)年。最寄りの西日暮里駅は当時できたばかりで、荒川区内にも銭湯がひしめきあう時代であった。

40年ほど前に脱衣場の上に住居を増築し、都内の銭湯でも例が少ない、宮造りの屋根の上に住居が重なるという現在の造りとなった。銭湯がこのような変化を遂げたのは、東京の銭湯建築を語る上で、とても重要な存在であることは間違いない。

男湯の脱衣場で目を引くのが、ロッカーの上に陳列された壺の数々。これは進繁さんが収集したものだ。このように脱衣場に陳列されているのは、他で見たことがない。奇麗に陳列されている壺からは、手入れの行き届いた脱衣場と浴室に通じる美意識を感じる。

もう一つ千歳湯を語る上で外せないのが、田中みずきさんが描いた背景画である。私はこの背景画の黄色の使い方がとても好きだ。田中さんは普段から他の絵師の方々より黄色を多用していると思う。その色使いは季節感を超越し、見ているだけで気持ちが明るくなるから不思議である。

さて、順也さんにうかがった数々のお話の中でも「やっぱり、掃除はこまめにやらないと」という言葉がとても印象に残っている。店仕舞いをした深夜に、その日の汚れをその日のうちに落とす姿を想像すると、千歳湯でいただくお風呂のありがたみが変わってくる。

また、照子さんも順也さんも「お客さん同士が仲良く話している姿を見ると嬉しくなる」と話す。お二人にとっての銭湯とは「町の憩いの場」であり「年代を問わず交流ができる場所」であるという。赤ちゃんが来れば、皆で面倒をみてかわいがり、母親は安心してゆっくりお風呂に入れる。仲間が集えば童心に戻ったように話も弾み、明日への活力が湧いてくるひと時が生まれる。そんな風景が毎日のように繰り返されている場所が千歳湯であり、銭湯以外にそんな場所を私は知らない。

2023年春、コロナ禍で実施されてきたさまざまな制限が徐々に緩和されている。銭湯の日常を取り戻すまで、もう少しの辛抱である。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
千歳湯(荒川区|西日暮里駅)
●銭湯お遍路番号:荒川区 16番
●住所:荒川区西日暮里4-8-4(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3828-0229
●営業時間:15時半~24時
●定休日:金曜
●交通:東京メトロ千代田線「西日暮里」駅下車、徒歩5分
JR山手線「西日暮里」駅または「田端」駅下車、徒歩5分
●ホームページ:http://arakawa-sento.jp/千歳湯

※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

店を営む佐藤照子さんと息子の順也さん


今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。
http://www.imadaphotoservice.com/

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