銭湯が持っている可能性を「小さな幸せをプレゼントする場所」と語るのは、ゆパウザひばりの若旦那、3代目の広野一輝さんである。

ゆパウザひばりの創業は1972(昭和47)年。2000年に現在のビル型銭湯に変わるまでは、同じ場所で「桐の湯」という屋号の銭湯を営んでいた。創業当時からひばりヶ丘駅はあったが周辺は空き地だらけで、店から駅が見えていたという。商売は順調だったが、1998年に母屋側からの出火が原因で建物を全焼してしまった。そのまま銭湯をやめる選択肢もあったが、常連さんの声に励まされ、屋号を改めて2000年に再起を果たした。

ゆパウザひばりの屋号には、あまり聞きなれない「パウザ」という外来語が含まれる。屋号の考案者である2代目ご主人の輝夫さんによると、語源は音楽用語で楽譜などに用いられる休符のPausa(イタリア語)に由来する。お風呂につかり、ゆっくり休んでほしいとの願いがこもった屋号が、23年経った今もネオン管に彩られ、輝きを放っている。

そのゆパウザひばりの魅力の一つが、地下100mから汲み上げた井戸水である。都内で唯一「平成の名水百選」に選ばれた「落合川と南沢湧水群」も近く、水質がよいため、常連さんの中にはコップやボトルを持参して入浴中のノドの渇きを潤す人も少なくない。かけ流しの水風呂も評判がよく、肌艶がよくなると女性に人気だ。特に冬場は水温が下がるために、冷たさを求めるお客さんに喜ばれている。

さて、若旦那は数年前から地元の小学校と連携して、年に一度、5年生に銭湯の営みを教えている。お湯の仕込みや掃除を通して裏方の仕事を体験してもらうほか、靴は下足箱に入れる、体は洗ってから湯船に入る、といった基本的な入浴マナーも教える。マナーを身に付けてもらうだけでなく、大人になっても銭湯のことを思い出してもらいたい、という願いが子どもたちとの交流には込められている。

若旦那は私が撮影している傍らで、カランにこびり付いたカルシウムの汚れを一つずつ丁寧に削り落としていた。1日に一つか二つしか進まない作業で、いわれてみないと気付かないほどの小さな汚れである。なぜそれを続けているかというと、「きれいな銭湯でひと時の幸せをプレゼントしたい」という思いがあるからだ。一人でも多くの人にひと時の幸せを感じてもらいたい、そんな若旦那の心意気がゆパウザひばりのもう一つの魅力だと私は思う。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
ゆパウザひばり(西東京市|ひばりヶ丘駅)
●銭湯お遍路番号:西東京市 2番
●住所:西東京市谷戸町3-17-8(銭湯マップはこちら
●TEL:042-421-6773
●営業時間:15〜23時半(日曜・祝日は13時〜)
●定休日:木曜
●交通:西武池袋線「ひばりヶ丘」駅下車、徒歩4分
●ホームページ:http://www.yu-pauza.com/
●Twitter:@yupauza

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ゆパウザひばり3代目の広野一輝さん


今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。
http://www.imadaphotoservice.com/

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