「次の世代につなげるための銭湯」と互いの口から同じ思いを聞かせてくれたのは、今年(2020)8月に新装開店した黄金湯の新保(しんぼ)卓也さんと朋子さん夫妻。お二人は黄金湯の隣湯である押上温泉 大黒湯を営んできたが、黄金湯は朋子さんが店主として切り盛りしている。
黄金湯は錦糸町駅から徒歩5分ほどのところにあり、昭和7(1932)年には現在地で営業していたことがわかっている。以前は昭和の風情ただようビル型銭湯だったが、今回のリニューアルでは、躯体は生かしたまま店内の全面的な改装工事が行われた。
今回の新装開店にいたる経緯はこうだ。前経営者が高齢を理由に引退することになり、新保さん夫妻が運営を引き継いだのが2年前。とはいえ、黄金湯は設備の老朽化が著しく、新保さん夫妻は営業継続について限界を感じていたという。
そんな中で、黄金湯界隈に拠点を持つアーティストの高橋理子さんに改装を考えていることを話したところ、「地域の活性化にもつながるので関わりたい」と興味を持ってくれたことが大きな転換点だった。それから高橋さんの紹介で、建築設計を手掛けるスキーマ建築計画の長坂常さんが加わり、改装プロジェクトがスタート。当初は銭湯を手掛けたことのない二人に依頼することに不安があったが、打ち合わせを重ねるごとに信頼感が増していったという。
そうしてできあがったのが、内装はコンクリート打ちっぱなし、フロントはDJブースやビアバーを備えたカウンター形式、脱衣場とフロントの仕切りは巨大なのれんという、斬新なデザインの銭湯。お湯の種類が豊富になったことに加え、以前の薪置き場や湯を沸かしていた釜場が、新たにオートロウリュサウナ・水風呂・外気浴スペースになった。「お客さんに喜んでもらいたいという気持ちが、いろいろなチャレンジにつながっている」という卓也さんの言葉通り、大黒湯で培った経験と銭湯業界の慣習に捉われない自由な発想が「新生・黄金湯」には詰まっている。
一方、「新しい銭湯だから、いろいろな人の意見を取り入れて前に進めていきたい」と話す朋子さんからは、あらゆる意見を取り込んで店を改善する、という懐の深さが感じられ、今後が楽しみである。
さて、黄金湯は次世代を意識して、一見若者向けのデザインではあるが、バーカウンターを中心に老若男女がくつろぎ、談笑する風景が見られる。従業員の方も楽しげに接客する姿を見ていると、それは地域の社交場として長年親しまれてきた伝統的な銭湯の風景そのものであり、現代的なデザインの中に懐かしさが融合していることが感じられる。
黄金湯があるエリアは、東京では珍しく道路が碁盤の目状に区切られていて、通りから見える景色にとても奥行きがある。夕方、店の前でビール片手に、一直線に西へ伸びる通りの向こうに広がる黄金色の空を見ながら、90年に及ぶ黄金湯の歴史について思いを巡らせるのもなかなかオツなものである。
(写真家 今田耕太郎)
【DATA】
黄金湯(墨田区|錦糸町駅)
●銭湯お遍路番号:墨田区 36番
●住所:墨田区太平4-14-6
●TEL:03-3622-5009
●営業時間:10~24時半、土曜15~24時半
●定休日:第2・第4月曜
●交通:JR総武線「錦糸町」駅(北口)より徒歩6分/「錦糸町」駅よりバス。「太平3丁目」下車、徒歩2分
●ホームページ:https://koganeyu.com/
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今田耕太郎
1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。