銭湯を営んでいて嬉しい瞬間を「お客さんの喜ぶ顔を見た時だよ。私はうち(テルメ末広)のお風呂が好きだから、それを褒めてくれるのがとても嬉しい」と語ってくれたのは、3代目ご主人の徳江康幸さん。
テルメ末広の創業は、昭和37(1962)年。創業時の屋号「末広湯」は初代・末吉さんの名前にちなんでいる。当時の宮造り建築の外観は、平成5(1993)年に現在の京町屋のような品格漂う佇まいに生まれ変わった。改装の際は「銭湯を参考にしても新しいものはできないから」と、銭湯には足を運ばず、ホテルなどを参考にして、木の温もりを感じながらくつろげる空間にすることを重視した。和風建築を得意とした建築士の義兄による設計を基に建てられたテルメ末広は、創意工夫の賜物である。従来の銭湯のイメージとはかけ離れているがゆえに、改装直後は銭湯と気付かれずに素通りする人も多かったというが、遠方から車でやって来る人や、荒川土手のランニングで立ち寄る人など、幅広い客層に徐々に知れ渡っていった。
京町家風の外観に対して、浴室は天井が高い創業当時の特徴を残している。お風呂で人気があるのは「季節の自然薬湯」で、薫り高いお湯が楽しめる(毎月3回実施)。ユーカリの葉湯など珍しい素材も使われることもあり、テルメ末広公式のSNSやHPで情報を発信しているのでぜひ”お湯”逃しなく。
少し話がそれるが、「何でも自分でやってしまう」と自負しているご主人は、自身のバイクや息子さんの車を、部品を取り寄せてカスタムしてしまうほどの知識と技術の持ち主。取材時もマフラーやタイヤなどの話を楽しそうに語ってくれた。電気工事士の資格も持っているため、店内の電気ケーブルの配線なども自分で行うそうだ。「電気関係が強いと何にでも応用できる」とのことで、なんとも心強く格好いい。ちなみに脱衣場に置かれている「アキレス腱伸ばし」の台もご主人のお手製で、その器用さが店内のいたるところで発揮されている。
さて、私は写真が好きであることを自覚しており、いつも自分が撮れるベストな写真を納品しないと気が済まない。そのため毎回力を入れて撮影しているが、それでも喜ばれない時は仕方がないと割り切っている。とはいえ、やはり撮影した写真が喜ばれると嬉しく、明日への活力になっていることは間違いない。冒頭の「自分が好きだと思うものを褒めてくれると嬉しい」というご主人の言葉は、銭湯に限らずいろいろな場面に通じる一つの真理だと、深くうなずけるものがあった。
(写真家 今田耕太郎)
【DATA】
テルメ末広(北区|志茂駅)
●銭湯お遍路番号:北区 7番
●住所:北区志茂5-16-14
●TEL:03-3901-6316
●営業時間:14~24時
●定休日:金曜
●交通:東京メトロ南北線「志茂」駅下車、徒歩7分
●ホームページ:http://www.therme.co.jp/
Facebook:https://m.facebook.com/thermesuehiro/
Twitter:@therme_suehiro
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今田耕太郎
1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。