今回撮影をさせていただいたのは江東区の白山湯。東京で初めて高濃度炭酸泉を導入したことで知られる銭湯だ。

現在の白山湯としての創業は昭和32(1957)年だが、以前は初代の白田栄二さんがすぐ近くにある小学校のグラウンド辺りで金剛湯という銭湯を営んでいた。小学校の建設に伴い現在の場所に移転し、屋号を白山湯に変え営業を開始した。

白山湯の屋号は栄二さんの故郷である石川県の白山神社に由来している。遠く離れたこの地で、故郷に思いを馳せて一生懸命に働いていたのだろう。そんな栄二さんの背中を見て育った2代目主人の敏郎さんは現在76歳。10歳の時にはすでに大八車を押して燃料集めを手伝い始めていたという大ベテランだ。今も現役バリバリの敏郎さんは「掃除だけはどこにも負けたくない」との言葉の通り、清潔に保たれている浴室はもちろんのこと、お客さんからは見えないバックヤードまで整理整頓が行き届いており、自分の店への愛情と誇りが感じられる。

今回の撮影は3代目の敏博さんの多大なご協力のもと、私の銭湯の撮影では初めてエキストラの方々に出演いただき、入浴風景の撮影を試みた。エキストラの方々の名前は伏せるが、銭湯に縁のある人たちなので、お気づきになる読者もいるはず。銭湯に通い慣れているので、今回の撮影でもいつも通りに入浴してもらったが、「さまになっている」という言葉がぴったりの皆さんであった。

さて、私は今まで何軒もの銭湯を撮影させてもらったが、撮影後は必ず入浴してきた。撮影時には無人だった銭湯が、開店して人々で賑い出すと雰囲気ががらりと変わるのを目の当たりにすると、それが銭湯の本来の姿であることを思い知らされる。そうすると人がいない「空間」だけの写真で、銭湯の面白さや雰囲気を感じてもらうことが可能なのか、常々不安を感じていた。

今までに営業中の撮影は3度しか経験しておらず、近年は半ば諦めかけていた。そんなときに私が尊敬する写真家の鈴木久雄さんにあるアドバイスをいただいたのが、今回の「エキストラ撮影」に挑戦したきっかけである。今まで考えもしなかったアドバイスだったので驚いたが、希望も湧いてきたことを鮮明に覚えている。

私が銭湯を撮影する目的は、多くの人に銭湯を知ってもらうこと、感じてもらうことであるが、今回のエキストラ撮影では銭湯を全く知らない人々にもその気持ちが届く写真が撮れたような気がしている。

どのような反響があるかという怖さもあるが、好評であればまたエキストラの面々には「ひと肌脱いで」もらうお願いをするつもりである。銭湯は、やはり人が入ってこその銭湯である。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
白山湯(江東区|豊洲駅)
●銭湯お遍路番号:江東区 19番
●住所:江東区枝川1-6-15
●TEL:03-3645-0862
●営業時間:15~24時
●定休日:土曜
●交通:東京メトロ有楽町線「豊洲」駅下車、徒歩10分
●ホームページ:–
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今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。

2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。

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