今回撮影をさせてもらったのは、創業昭和11(1936)年の中野区・松本湯。平成元(1989)年に木造の銭湯から現在のビル型の銭湯に建て替えている。

3代目ご主人の松本元伸さんによると、建て替え当時この辺りは平屋ばかりで、店の前の通りも肉屋、魚屋、八百屋などがあり、商店街として活気があったそうだ。しかし、ここ30年で周辺は集合住宅が建ち並ぶ住宅街に変わってきているという。

さて、私はどうしても銭湯を被写体として、おもしろいか、はたまた個性的か、好奇心を掻き立てられるか、そんな偏った視点で見てしまう。

その点、松本湯はとても個性的で、それでいて、とても女性的な佇まいの銭湯だというのが最初の印象である。具体的には、通りから少し奥まったところに見える玄関の上に赤く光る「湯」のネオン、それを囲むピンク色の縁は薄化粧をしているようでとても色気を感じるし、内部の空間のゆとりの多さは母が子に対するような、懐の深い思いやりを感じる点が挙げられる。

松本湯は他の銭湯に比べ、待合スペースや脱衣場が広い。浴室も奥行きがあり、湯船の構成や色彩も含めて個性的である。その反面、バックヤードは非常にコンパクトな造りで、ボイラーと濾過器それぞれが1階と2階に分かれて設置されている。広々とした待合スペースや浴室の裏側に、パイプが張り巡らされたバックヤードがあるとは誰も想像がつかないだろう。

お店はご主人を含めた4人(奥様、お母様、番頭さん)で切り盛りする。さらに定休日と日曜日以外には、営業時間前にデイサービス事業も行っており、地域の福祉事業にも貢献している。代々受け継いできた場所で、昔も今も変わらず街の銭湯として松本湯が愛され続ける最大の理由は、松本湯を支える人々の「ゆっくり寛いでもらいたい」という気持ちが形に現れ、訪れる人を分け隔てなく受け入れていることにあるような気がする。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
松本湯(中野区|落合駅)
●銭湯お遍路番号:中野区 19番
●住所:中野区東中野5-29-12
●TEL:03-3371-8392
●営業時間:15~24時
●定休日:木曜/祝日の場合は翌日休
●交通:東京メトロ東西線「落合」駅下車、徒歩3分
●ホームページ:http://www.matsumoto-yu.com/
銭湯マップはこちら

※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。


imada

今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。

2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。

http://www.imadaphotoservice.com/