ようやく晴れの日の撮影に漕ぎ着けた。この秋は気まぐれな空模様が続いていて、私は何度事務所で地団駄を踏んだことだろう。今回紹介する梅の湯を撮影したのは11月中旬だったが、太陽はすでに冬を感じる日差しに変わっていた。

梅の湯は昭和26(1951)年創業の銭湯で、親子で引き継がれて今のご主人が3代目。2016年にそれまでの建物を取り壊し、1階にご主人のお母さんが経営する焼き鳥屋『梅京』とコインランドリーを造り、2階に浴室とロビーがある新しい銭湯へと生まれ変わった。

その2階にあるロビーは天井が高く開放感があり、休憩スペースの枠組みを超えた様々な用途に使うことを考えられた空間になっている。

私は銭湯の撮影の時は、いつも開店間際まで浴場内の撮影をさせてもらった後、開店の暖簾が出される瞬間を外から撮影している。というのも、必ずと言っていいほどご年配の常連さん達が開店を待っており、私に話しかけに来てくれるからだ。そして、会話するうちに常連さんの銭湯への思いを聞けるのがとても貴重で、いつも楽しみにしている。

今回は、常連さんからロビーに掲げられている巨大なカルタ絵の話題が出た。建て替え前は天井に飾られていたカルタ絵だが、建て替え時にその常連さんが店の前を通りかかると解体中の脱衣場でカルタ絵がむき出しになっていた。それを見てカルタ絵は廃棄されるのかと残念に思っていたところ、建て替え後はロビーに飾られているのを見てホッとした、とにっこり笑って話してくれた。その笑顔に梅の湯がどれだけ常連さんに親しまれているか、垣間見えた気がした。ちなみにその常連さんは湯上がり後にロビーのテレビで相撲を見るのが楽しみで、いつも3時間以上は梅の湯に滞在しているらしいが、長居したくなるのもわかるような気がする。

常連さんやご年配の方が通う、その地で代々受け継がれた歴史や風情がある「町の銭湯」が減りつつある中、梅の湯のような銭湯が、今の時代に求められているのかも知れない。

今回もまた、銭湯で出会う人たちに何か温かい気持ちを貰った気がする。最近、渋めの銭湯ばかり好んで撮影していたことを少し反省している。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
梅の湯(荒川区|田端駅)
●銭湯お遍路番号:荒川区 3番
●住所:荒川区西尾久4-13-2
●TEL:03-3893-1695
●営業時間:15~25時
●定休日:月曜
●交通:山手線「田端」駅より徒歩15分、都電荒川線「小台」駅より徒歩6分
●ホームページ http://arakawa-sento.jp/梅の湯 
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今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。

2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。

http://www.imadaphotoservice.com/