人種と文化が交差する街、新大久保に万年湯が帰ってきた。リニューアル工事を経て2016年8月に新装オープンした万年湯は、日本らしさを随所に残す洗練された佇まいが、韓流が一大勢力の新大久保でひときわ異彩を放っている。
新大久保は韓国文化の坩堝(るつぼ)のようなところで、韓国料理のお店と韓流スターのポスターをはじめとしたグッズを販売する店が交互に並んでいる。この街に立っていると日本人と韓国人の見分けがつかなくなり、人種の壁を超えた瞬間を味わえる。
私が今まで見てきた銭湯は、古いものでは半世紀を超えた建物も多い。建造当初の姿のままで今に至る銭湯は少なく、時代に合わせて変化を繰り返している。万年湯のような銭湯を目の当たりにすると、その進化の度合いには目を見張るものがある。下駄箱や脱衣場などは、昔ながらの風情を残しつつも洗練されたデザインで、浴室の照明や様々な色や形のタイルからは、お風呂好き大国ならではの技術の進歩が感じられる。
私は毎回必ず撮影後に入浴をしてから帰る。というより、それが楽しみで撮影していると言ってもいい。撮影後のお風呂は格別で、このテーマを続けてこられた大きな所以でもある。いつものように撮影後の入浴を楽しみ、脱衣場でひと休みをしていたら、初めて銭湯に来たという外人さんが近くにいた若者に「服は全部脱ぐのか?」と話しかけている。答えはもちろん『イエス』である。周りを見渡し覚悟を決めたのか、恥ずかしそうに裸になって入っていった。
ちょっと様子が気になったので遠目に様子を見ていたら、常連さんがその外人さんに近づいていき、カランの使い方からシャンプーの種類まで丁寧に教えているではないか。片言の英語なのか、日本語で身振り手振りなのか、それは分からないが、とても素晴らしい光景だった。もっと外人さんに気軽に楽しんでいただけるような銭湯が増えてくるといいと思う。
日本に滞在していて銭湯に行かなかったなんて、ハワイに行って海水浴をしなかったも同然である。マナーや習慣などの違いはあるかもしれないが、お互いに思いやることが出来れば、もっと気持ちの良い銭湯を味わえると思う。
(写真家 今田耕太郎)
【DATA】
万年湯(新宿区|新大久保駅)
●銭湯お遍路番号:新宿区17番
●住所:新宿区大久保1-15-17
●TEL:03-3200-4734
●営業時間:15〜24時
●定休日:土曜
●交通:山手線「新大久保」駅下車、徒歩5分
●ホームページ:http://1010yuge-g.jp/map.html
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今田耕太郎
1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。