遅ればせながら東京は6月21日に梅雨入りしました。気象庁によれば、昨年は6月8日ごろに梅雨に入り7月22日ごろ明けた、とされています。そしてお忘れかもしれませんが、観測史上最多の連続真夏日の記録。梅雨の最中の7月6日から立秋を経て9月7日まで、なんと64日間も最高気温30℃以上の日が続きました。果たして今年はどうなるでしょうか?
さて、梅雨の前後によく聞かれる言葉が「暑熱馴化(しょねつじゅんか)」。体が暑さに慣れることをいいます。私たちは運動や仕事などで体を動かすと体内で熱が作られ、体温が高くなります。すると、汗をかくことによる気化熱、心拍数の上昇、皮膚血管拡張などによって、体表から空気中に熱が放散され、体温を調節する仕組みになっています。この体温の調節がうまくできなくなり、体の中に熱がたまって体温が上昇すると熱中症になるのです。
うまく暑熱馴化ができるようになると、発汗量や皮膚の血流量が増加して体の表面から熱を逃がす熱放散がしやすくなります。 つまり、無理のない範囲で汗をかく体に仕向けて行くことが暑熱馴化の原則ということになります。ポイントは運動と入浴。個人差はありますが、「夏の健康体」になるには2週間程度かかると言われています。まさに今から始めるべきです。
『銭湯検定公式テキスト②』によれば、「一番いいのは銭湯の炭酸泉を利用すること。38~40℃の炭酸泉に15~20分浸かってしっかり汗をかくことです。これを、できれば2~3週間連日行います」と暑熱馴化のコツが紹介されています。炭酸泉がなくても、20分程度浸かれるぬるい湯に入り、しっかり汗をかくことが大切だと説いています。
ぬるい湯だけかと思っていたら、サウナも暑熱馴化にいい、という研究が紹介されていました。一般社団法人ジャパン・アスレティックトレーナーズ機構(JAT)の運営コラムに、「運動後における間欠的サウナ入浴は暑熱環境下における鍛錬された中距離ランナーの運動耐容能を向上させる」と題した2021年のイギリスの研究論文(Kirby NV, Lucas SJE, Armstrong OJ, Weaver SR, Lucas RAI. Eur J Appl Physiol. 2021 Feb)です。
「運動後における間欠的サウナ入浴は暑熱環境下における鍛錬された中距離ランナーの運動耐容能を向上させる」 https://jato.or.jp/column/1244/
この研究は、大学の陸上競技部に所属する中距離走ランナーなど20名が参加し、3週間にわたり全身を使った持久力トレーニング(室温40℃、湿度40パーセントでの30分間のランニング)のみを行う群(8名)と、トレーニング後にサウナに入浴する群(12名)に振り分けて行われました。入浴したサウナは、101~108℃、湿度は5~10%で、週に2~3回のペースでした。入浴時間は26~30分(休憩をはさんだかどうかは不明)でした。
サウナで持久力アップ(写真はイメージです)
その結果、サウナに入浴した群は持久力トレーニングのみの群と比べて、直腸温、皮膚温、心拍数が有意に低下し、汗腺活動が有意に増加したということです。つまり、運動後のサウナ入浴を3週間継続することで、暑熱環境下での運動中の深部体温が低下し、発汗する力が増したわけです。さらにサウナ入浴群はその後4週間同じ実験を続けました。すると、実験開始7週間後の持久力トレーニング中の直腸温はさらに低下したということです。
この実験では、常温環境下(室温18℃)での最大酸素摂取量(持久力の指標で、1分間に体内に取り込める酸素の量)とクリティカル・スピード(ずっと運動を継続できる最大のスピード)の測定も行いました。その結果、運動後のサウナ入浴により認められた暑熱馴化は、常温環境下の運動能力増強にも好影響を及ぼすことが示唆されということです。
興味深い実験ですが、40℃の環境下で30分走った後に100℃以上のサウナに30分入浴する……、ちょっとついていけそうにない過酷な実験です。私たちが真似るにしても、相当条件を緩和しなくては危険です。
梅雨時、私たちはシャワーだけですっきりしたいという衝動にかられがちです。しかしこの実験からもわかるように、本格的な暑さを前にして入浴で汗をかくことが得策であることが分かります。シャワーは汗を流すだけで、体の深部を温めてはくれませんから、今が銭湯習慣をつける絶好機と言えるでしょう。できれば銭湯の炭酸泉やサウナの利用がおすすめです。
ただ、毎年のことではありませんが、梅雨の期間は時々、数日涼しい日が続いたりもします。せっかく一度暑熱馴化ができても、暑さから遠ざかる日が続くとその効果はなくなってしまうこともありますから注意しましょう。なお、一般財団法人日本気象協会の「熱中症ゼロへ」に暑熱馴化チェックというコンテンツが掲載されています。直近2週間について3問中、当てはまる項目の総合点が7点以上なら一安心。自身の状態を知る一つの目安になりそうです。
問1 入浴(シャワーだけでなく湯船に入る)
2日に1回以上入浴している(3点)
週に3日入浴している(2点)
週に1、2日入浴している(1点)
入浴することはほとんどない(0点)
問2 運動(汗をかく程度のもの)
週に5日以上、汗をかく程度の運動をしている(3点)
週に3、4日、汗をかく程度の運動をしている(2点)
週に1、2日程度、汗をかくほどの運動をしている(1点)
運動はほとんどしていない(0点)
問3 その他の汗をかく行動(運動、入浴以外の外出など)
運動・入浴以外の外出などで汗をかく機会はほとんどなかった(0点)
運動・入浴以外の外出などで汗をかく機会が週1、2回あった(1点)
運動・入浴以外の外出などで汗をかく機会が週3、4回あった(2点)
運動・入浴以外の外出などで汗をかく機会が週5日以上あった(3点)
暑熱馴化チェック https://www.netsuzero.jp/learning/le15
銭湯の検索はWEB版「東京銭湯マップ」でどうぞ