「お風呂上がりの肌がこんなにしっとり滑らかな感じになるなんて!」――かゆみを伴う赤みやブツブツした発疹が体のあちこちにできて、肌全体がいつもカサついた感じのアトピー性皮膚炎で悩んでいた女性が、そのお風呂から上がったとたん、思わずそうつぶやいたそうです。そのお風呂とは、「ルイボスティー湯」。
昨年(2022)7月から始まり、今ではすっかり定着した東京銭湯の「変わり湯イベント」。今年の11月26日(いい風呂の日)には、そのルイボスティー湯が行われます(※)。ルイボスティーは1980年代から、日本で非常に人気が高まっているお茶。民間のPOSデータ集計によれば、紅茶、日本茶、麦茶、中国茶以外の「その他茶類」カテゴリーの売れ筋ランキング(22年4~9月)では、ルイボスティーがトップとなったそうです。ルイボスティーとはどんなお茶でしょうか。お風呂に入れるとどんな効果が期待できるのでしょうか。
ルイボスティーは、南アフリカ・ケープタウンの北にある、セダルバーグ山脈でとれるマメ科植物のルイボスから作られる発酵茶。ルイは赤、ボスは藪という意味で、文字通り赤褐色をしています。セダルバーグの博物館には、南アフリカ先住民が6000年以上も前からルイボスの葉を煎じて飲んでいる様子が洞窟の壁画に残っているともいわれ、それがルイボスティーの起源の一つとされています。産業化されたのは20世紀に入ってからで、紅茶栽培のノウハウを活かしてルイボスティーの生産が始まりました。すでに日本ではよく知られているルイボスティーですが、実は南アフリカでしか生育しない貴重な植物なのです。そのすごい薬効に惹かれ、世界各地で栽培しようという試みがありましたが、全て失敗に終わったといわれています。
ちなみにルイボスは、昼と夜の気温差が30℃以上の過酷な地域で育ち、ミネラルやポリフェノールが豊富に含まれています。先住民たちからは、「不老長寿のお茶」「奇跡のお茶」とも呼ばれ、今のように嗜好品としてではなく、治療目的として飲まれていたともいわれています。伝えられている効果としては、便秘の改善、抗ウイルス作用、発がん抑制作用などがありますが、これらはいずれもお茶として飲んだ場合のものです。
日本では1999年、愛知医科大学加齢医科学研究所において実験が行われ、優れた抗酸化性が認められたという研究論文が発表されています。抗酸化作用とは、簡単にいうと体の中で錆びができるのを防ぐ作用です。私たちは酸素がなくては生きられませんが、酸素は体内で「活性酸素」という体の錆びを作り出します。活性酸素は年齢とともに増えていきますが、ストレスや喫煙、紫外線、激しい運動などによっても増える物質で、老化、がん、シミやしわ、糖尿病、動脈硬化などの原因となることが知られています。動物実験ながら、優れた抗酸化作用が認められたということは、南アフリカ先住民の「不老長寿のお茶」「奇跡のお茶」は大げさなものではないといえるでしょう。
では、ルイボスティーをお風呂に入れて入浴した場合はどうでしょうか。冒頭のアトピーに悩まされていた女性のつぶやきは、ルイボスティーの効果といえるのでしょうか。この点について、現時点ではルイボスティー湯の入浴実験が行われた実績は見つからず、したがって科学的に裏付けられる根拠はありません。
しかし、愛知医科大学加齢医科学研究所の研究論文の中に、有力なヒントが含まれています。この論文には、「ルイボスティーに含まれることが報告されているフラボノイドのうち、オリエンチン、イソオリエンチン、ルテオリン、ルチン、イソケルシトリン、ケルセチンを用いてその抗酸化性を検討した」とあり、「中でも構造的に糖を持たないルテオリン、ケルセチンが強い抗酸化性を示した」と書かれているのです。
フラボノイドとは植物色素の総称で、植物の葉、茎、幹などに含まれており、4000種類以上が見つかっています。人体の特定の生理調節機能に働きかけるため、機能性成分としても注目されるようになりました。
そのフラボノイドの一つである「ルテオリン」にはどんな働きがあるのでしょうか。たとえば紫外線を浴びることによって発生する活性酸素は、表皮細胞のさまざまな遺伝子スイッチをオンにしてシミなどを作り出すといわれていますが、ルテオリンにはそれを抑制する効果があるらしいのです。また、2006年に発行された『日本補完代替医療学会誌』に掲載されている「アレルギーとフラボノイド」(大阪大学呼吸器・免疫アレルギー・感染内科学講座)という論文には、フラボノイドにさまざまな抗アレルギー効果があり、ルテオリンにアトピーによる皮膚症状の改善効果が期待できるという趣旨の説明がされています。
研究論文に出てくるもう一つの物質「ケルセチン」とはどんなフラボノイドでしょうか。ケルセチンは玉ねぎの皮に多く含まれる物質ですが、アレルギー物質の放出を抑制したり、細胞の老化を防ぐことが知られています。これらの説明を総合すると、ルイボスティー湯の湯上がりに感動した冒頭の女性のつぶやきには、かなりのリアリティーがあると感じられます。
アトピーに限らず、ルイボスティーを入れたお風呂には、シミやしわを予防する美肌効果が大いに期待できそうです。株式会社サティクス製薬のホームページに「表皮の微弱炎症を抑制してメラニン産生抑制」と題してルテオリンの効果が書かれていますが、期待されるものとして「美白」「抗炎症」「解毒」などが挙げられています。まずは、11月のルイボスティー湯(※)をお試しいただいて、新しい美肌作りに挑戦してみてはいかがでしょうか。
(※)ルイボスティー湯の実施日は、地域や銭湯によって異なる場合があるので、ご利用の銭湯にご確認ください。一部で実施しない地域もあります。
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