誰もが必ずしも経験する症状ではありませんが、世の中で多くの人が抱えている体の不具合がいくつかあります。耳の聞こえが悪くなった、膝が痛い、肩がこる、手足が冷たい……。目の疲れもそのような悩みの一つかもしれません。

いわゆる高度情報化社会を生き抜くために、多くの人たちは一日に何時間もモニター画面から発するブルーライトを浴びる生活を強いられています。その結果「目が疲れた」という症状を訴える人が近年激増しているといわれます。とりわけコロナ禍以降、在宅勤務中のオンライン会議などで、ブルーライトに当たる時間が長くなりました。「眼科を受診するほど深刻な状態ではないけれど、何かいい目薬はないか」とドラッグストアをさまよう人が増えたせいか、最近はアイケアのコーナーが充実してきました。

目が疲れたと感じることを「眼精疲労」といいます。 具体的な症状は「ぼやける」「目が痛い」「充血する」「目がしょぼしょぼする」「まぶしい」「涙が出る」などさまざま。普段気にしていなくても、こうした症状、心当たりはないでしょうか。これらの症状が進むと、肩こり、頭痛、めまい、吐き気などの症状を訴えることもあるといわれます。

さて、眼精疲労の原因はいろいろあるようです。メガネやコンタクトの度数が合わないことや、ドライアイ、緑内障、白内障などの眼病が引き金になることもあるようです。そのほか、長時間にわたるVDT(パソコンやスマホなどの画像情報端末)機器の使用で目を酷使し、目の周囲の血流が滞ることも有力な原因として挙げられています。目の周囲の筋肉が緊張して血行不良となり、疲労物質がたまる、すなわち体の他の部位で起きる現象が目でも起きるというわけです。

それならば、他の部位でも効果がある入浴が眼精疲労にも効くのではないか……?
正解です。「銭湯で元気㉒」では、疲労回復の入浴法として38~40℃の湯に15分程度浸かることを提唱していますが、眼精疲労の場合も同じ。ただし、体全体の疲労をほぐしつつ、目の周りも同時に温めて血流をよくする必要があります。そこで、湯船に浸かりながら蒸しタオルを当ててマッサージすることをお勧めします。

ところで、眼精疲労の回復にはシャワーも役立つようです。東京ガスの都市生活研究所が2011年に「温かいシャワーで目の疲れが緩和されるかどうか」の実験を行いました。身体疲労や精神疲労の緩和に温熱作用が効果的ならば、目の疲れの緩和にも役立つのではないか、というのが検証の動機でした。

実験に参加したのは20代の男性10名。実験前に6時間以上の睡眠をとり、実験当日はカフェインやアルコールの摂取、喫煙や激しい運動を控えて行われました。そして室温27℃の浴室で、42℃と32℃のシャワー、およびシャワー無しの条件で比較実験したのです。シャワーはいずれの温度も1分間5リットルの水圧、閉眼で右目から片目1分ずつ、交互に3回ずつ当てました。

被験者の目に疲労を与えるためのタスクは、Excel上でランダムに配置したカタカナの中から、「ア」「メ」「フ」「リ」を探し、各文字の左側に配置されたチェックボックスにチェックを入れる作業を20分間行うというもの。本格的な実験だったことがお分かりいただけると思います。(下図参照)

スクリーンに表示される疲労タスク画面(「都市生活レポート」より)

 

実験結果は次のとおりでした。
・42℃のシャワーを当てることで目の周囲を温める効果が得られる
・42℃のシャワーを目の周囲に当てることによって、目の疲労による一時的な視力低下から早期に回復
・42℃のシャワーを目の周囲に当てることによって、早期にスッキリ感が増加しショボショボ感が減少。目の周囲の皮膚温の上昇と相関が見られる
・32℃のシャワーでは有意な緩和が見られなかったことから、シャワーの水圧によるマッサージ効果よりも温熱効果が影響していると考えられる

「シャワーだけの生活では、肉体的・精神的にリラックスやリフレッシュの効果が得られない」「健康入浴の基本は浴槽で肩まで浸かる温浴でなければならない」と基本的なセオリーを繰り返し述べてきましたが、シャワーでこのように補助的な効果があるのも事実です。温冷交代浴をする場合も、水風呂がないとか、水風呂が得意でないという人は、シャワーを使って冷浴することをお勧めしました。銭湯でもシャワーは欠かせないアイテムであることは間違いありません。

銭湯のシャワーもいろいろ進化していることをご存知ですか? 軟水のシャワーとか、超微細気泡といわれるマイクロバブルを噴射するシャワーヘッドとか。銭湯も設備充実の競争が盛んになってきました。 (以下、次号)


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