あるうつ病専門のクリニックのサイトに、「うつ病の傾向がある人が話す4つの言葉とは?」という解説が掲示されています。まず、「不幸」や「絶望」などのネガティブ発現を多用することが挙げられ、気分の落ち込みが原因で、うつ症状のなかで一番わかりやすい言葉であるといわれています。

次に「絶対」。まじめで几帳面な人がなりやすいうつ病は、「白か黒か」や「0か100」という概念にとらわれやすいようです。また、現実とのギャップがありすぎるほど理想が高いために、「~しなければいけない」もよく口に出てくるようです。そして思い通りにいかないことに苛立ち、自身を責めたりすることも特徴です。やがて自分を追いつめてしまい、精神を病むことにつながります。

また、うつ病はコミュニケーションに問題を抱える人に多く、「僕は」「私が」「自分からすると」など一人称単数形を多用するのも特徴と解説されています。他人への興味が薄れているということが、うつ病の大きな特徴ともいえます。このため一人称の言葉を多用する場合は要注意、としています。

「心のカゼ」などとしゃれたいい方もされているうつ病。前記の4つの言葉が、自分は一つも当てはまらないとどれほどの人がいえるでしょうか。少なくとも一つくらいは身に覚えがありませんか。

厚生労働省の調査によると、うつ病で治療を受けている患者数はおよそ100万人で、男女別でみると女性のほうが男性よりも1.6倍多いという結果が示されています(厚生労働省「患者調査」)。病院を受診していない人を含めると、実際にはもっと多くの方がうつ病をはじめとする「気分障害」に苦しんでいると考えられます。また、日本におけるうつ病の生涯有病率(一生のうちに一度は病気にかかる人の割合)は7.5%で、およそ13人に1人がうつ病を経験している計算になりますから、けっして珍しい病気ではなく、だれでもかかる可能性があります。

うつ病の明確な発症メカニズムは、現時点では解明されていません。特徴的な症状は、強い悲しみや気分の落ち込みなど、いわゆる「抑うつ気分」や、意欲や喜びの低下が現れることです。ただ、うつの現れ方は人によって大きく異なり、動作が緩慢になって反応が遅くなるケースもあれば、些細なことで怒りっぽくなるといった行動の変化が目立つケースも少なくないようです。また、うつ病はこれらの精神的な症状だけではなく、不眠や食欲低下、頭痛、消化器症状といった身体的な不調を引き起こすことが多いのも特徴です。

暗い話を展開してきましたが、ここからは明るい話。週に7回以上、浴槽の湯につかり入浴している高齢者は、週0~6回浴槽入浴している高齢者に比べてうつ病になる割合が低いことを、東京都市大学人間科学部の早坂信哉教授(公衆衛生学・在宅医療学)らのグループが明らかにしました。特に冬場のうつ病発症率が有意に下がったというのです。高齢者はうつ病発症をきっかけに介護状態に陥ることが多いといわれるので、毎日の浴槽入浴がその防止につながる可能性があるというのは、実にエキサイティングな研究結果です。

今回の調査では、「JAGES(日本老年学的評価研究)」で全国14自治体の65歳以上の高齢者を対象に、2010年と2016年に実施したデータを用い、夏と冬の浴槽入浴の頻度とうつ病発症との相関を追跡調査しました(夏は3220人、冬は3224人)。この追跡調査は、2010年に週0~6回の浴槽入浴をしている人と、週7回以上の浴槽入浴をしている人、各群の6年後の「老年期うつ病評価尺度(GDS)」が5点以上となったうつ発症割合をもとめたものです。

その結果、6年後のうつ発症割合は、夏の浴槽入浴回数が0~6回の人で12.9%(冬は13.9%)、週7回以上の人で11.2%(冬は10.6%)でした。夏冬いずれも、週7回以上浴槽入浴をしている人のうつ病発症割合が低く、特に冬は統計学的な有意差があったと報告されています。

「年齢や性別など他の多くの要因を考慮した解析の結果、夏の入浴回数が週0~6回の者に対して、週7回以上の者のうつのかかりやすさ(オッズ比)は0.84倍、冬の浴槽入浴回数0~6回の者に対して週7回以上の者のうつのかかりやすさは0.76倍で、いずれも週7回以上浴槽入浴している者はうつ発症リスクが低く、(中略)浴槽入浴の温熱作用を介した自律神経のバランス調整作用や、睡眠改善などのうつ予防作用による習慣的実施の結果と推察されました」

と7月に発行された東京都市大学のニュースリリースで解説されています。

この調査結果から、うつと入浴に温熱作用が大きな役割を果たしていることがうかがえますが、とりわけ不適切な睡眠時間が現代人のうつを増やしているのではないかと推察されるエピソードがあります。獨協医科大学越谷病院こころの診療科の井原裕教授が次のように紹介しています。

「私の外来には、都内のクリニックや大学病院から次々に患者さんが移ってこられます。その中には、霞が関の官僚、大手町の銀行マン、六本木のIT系会社社長、新聞記者、さらには医師(それも精神科医すら)など、さまざまな職業の方がいらっしゃいます。その中でも、最悪の職業と言えるのが、新聞記者です。なぜならば、短時間で不安定な睡眠、アルコール乱用など、『都市型うつ』をもたらす生活習慣の悪条件がほぼすべてそろっているからです。

おおまかにくくって、彼らの生活は以下のようなものです。大手新聞社の場合、締め切りは、朝刊の場合で日付が変わってから、夕刊は正午に設定されるのが一般的です。したがって、記者たちは夜に翌日の朝刊の記事を書き、午前中に夕刊の記事を書きます。ただ、締め切り間際に大きなニュースが飛び込んでくると、締め切りを遅らせてでも次の朝刊、夕刊に載せようとします。その結果、入稿期限ギリギリの瞬間まで時間との戦いが続くのです。

(中略)

しかし、新聞記者だってヒトです。生理学の法則に勝てるわけがありません。孤独な戦いを強いられるうえに、慢性的な睡眠不足とアルコール漬けの日々。これだけ条件がそろえば、『都市型うつ』になって当然なのです。私は、一流の新聞記者を何人も診察していますが、記者という人たちは、例外なく、知的な人です。しかし、本来は『知性の人』であるはずの記者さんが、短時間睡眠という根拠のない信仰にしがみついているのは何とも解せません」
https://toyokeizai.net/articles/-/141199

単純な話ですが、しっかり浴槽入浴することによって、質の高い睡眠が得られる、そうすればうつにかかりにくくなる、ということ。心を救うのはお風呂です。


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