夏が終わって一気に寒暖差の大きな季節になりました。朝晩はまるで冬のような日も多くなり、着るものに苦労する毎日ですが、それでも昼間は秋満開。ウオーキングやジョギング、テニスやサッカーなど運動を気持ちよく楽しめるようになりました。

銭湯でも、休日には少年野球を終えた子供たちが汗を流す風景などが見られます。さわやかな笑顔の中に、銭湯ならではの季節感が漂います。運動をしたらお風呂に入って疲れをとる、あるいはシャワーを浴びてスッキリする、私たちがなんとなくやっている生活パターンですが、時には逆効果を生むこともあるようです。

今回はスポーツと入浴について、ちょっと考えてみましょう。

運動して汗をかいた後は、お風呂で汗を流すのがとても気持ちいいですよね。時々、お湯につかるかシャワーだけにするか迷うこともあると思いますが、疲れた体の回復を図るためには湯船にゆっくりとつかるほうが効果的です。それはなぜか。

これまで何回も紹介してきましたが、湯船につかると、私たちの体には温熱作用・水圧作用・浮力作用の3つの力が働きます。これらの作用が相互的に働き、まず血管が広がって血行が良くなり、体の深部まで温まります。そして新陳代謝も活発になり、老廃物や疲労物質の排出を促します。また、水の中にいると、体重は空気中に比べて約9分の1程度まで軽くなりますから、筋肉や関節の負担が軽くなって気分もリラックスします。よく温まることによって寝つきも良くなり、しっかり体を休めることができます。

一方シャワーは、浴びているとお湯の圧力で肌に心地良さは感じますが、湯船の水圧作用ほどの力はありません。温熱作用も全身的ではなく、全身が温まるというには程遠い感覚です。もちろんシャワーを浴びても浮力作用は受けません。つまり、湯船で全身浴をすることによって得られる効果はほぼ皆無です。

ただし、湯船につかるならどんなお湯でもいいかというと、そうではありません。運動直後に40℃以上のお湯につかるのは良くないといわれています。リパーゼという脂肪分解酵素の働きが低下する懸念があるからです。リパーゼという酵素は、運動開始後から20分くらいで活性化し、運動を終えた後も30分程度はその働きが持続しますが、熱いお湯につかって体温が上がりすぎてしまうと働きが低下し、脂肪の燃焼効果が弱まってしまう可能性があるのです。これではダイエットを目的にした運動も逆効果。

しかし、疲労回復が目的の入浴なら運動直後でも構わないという興味深い実験があります。日本温泉気候物理医学会誌(2015年78巻2号)で発表された「運動後の入浴時の血中乳酸値の変化に対する入浴前後の安静による影響」という研究発表です(日本健康開発財団の早坂信哉氏ら)。

この実験は「正しい入浴法として運動後30分〜1時間の安静を経て入浴することが一般的に推奨されているが、これまで、運動後、入浴する前に安静時間を取ることの有無が、疲労回復にどのような影響があるかは明らかではなかった。そこで、本研究では運動負荷の後、入浴前の安静の有無によって疲労回復、特に血中乳酸値の変化にどのような影響があるかを明らかにすること」を目的として行われました。疲労の測定法にはいくつかありますが、その一つの指標に乳酸値があり、この実験では血中の乳酸値の下がり具合を比較することにしました。

健康な成人男子10名にトレッドミルで息が切れるまで走ってもらい、その直後に湯船に入浴するパターンと、1時間待ってから入浴するパターンを比較しました。湯船の温度は38℃。運動直後に熱い湯に入るのは大変そうだったので少しぬるめに設定したそうです。この結果、38℃ならば運動直後に入浴しても1時間たってから入浴しても、乳酸値は同じように下がることが分かりました。つまり疲労回復の度合いはほぼ同じだったというのです。ただし、「湯温を一般的なお風呂と同じ40℃、41℃で検証を行ったら、違った結果になっていたかもしれません」(『入浴は究極の疲労回復術』早坂信哉著・山と渓谷社)と述べています。

この実験では明らかにされませんでしたが、「あくまでも理想は、体を動かしたあと30分から1時間空けて、40℃程度のお風呂にゆっくりつかることです。そのほうが体の疲れが取れやすい」(同)ということですから、運動直後はとりあえずシャワーで汗を流し、時間をおいて湯船につかる、というのがセオリーかもしれません。

体力に自信がある人は、「温冷交代浴」もおすすめです。 温冷交代浴とは、温かいお湯と冷たい水に交互につかる入浴法。血管の拡張と収縮を交互に繰り返すことができ、普通に温かいお湯につかるよりも血行促進が期待できる入り方です。効率よく疲労回復ができるので、きつい運動をした後に試してみるのもいいでしょう。

ただし温冷交代浴に慣れてくると、温浴と冷浴の温度差を広げたくなる人が増えてきますが、これはもったいないやり方だと専門家はいいます。温浴で42℃を超えると、交感神経を刺激して血管を縮めるほうに働きやすくなるからです。温冷交代浴の狙いはあくまでも、温かい湯で副交感神経を刺激して血管を広げ、冷浴で交感神経を刺激して血管を縮めることですから、温浴は41℃くらいまで、冷浴は不慣れな人は30℃、慣れてきても20℃を下回らないほうが安全だといえるでしょう。スポーツの秋、体をたっぷり動かしたらぜひ銭湯入浴で運動効果を上げるよう頑張ってください。


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