今年も乾燥肌が気になる季節になりました。今からちょうど3年前、「銭湯で元気㊹」でもこのテーマについて取り上げました。乾燥肌予防の入浴法として、体を洗うのは湯船に浸かった後がいいか先がいいかについて、考え方が正反対の二人の医師の発言を紹介しつつ、どちらかを正しいと根拠づける研究はまだない、という結論でした。

そして3年たった今もこの結論は変わりませんが、お風呂の入り方よりも湯上がり後の対処のほうが重要であることが分かってきました。「銭湯で元気㊹」でも、乾燥肌を防ぐ湯上がり後のポイントとして「保湿ケアは10分以内に行う」があげられています(東京都市大学・早坂信哉教授)。

早坂教授は2017年に「保湿リミット」の実験を行い、「お風呂から出て10分までは入浴前より皮膚の水分量が多いことが分かっています。10分を越えると水分量は入浴前と同じ程度に戻り、さらに30分経過すると入浴前より減ってしまう」(『銭湯検定公式テキスト②』より) ことが証明されました。この実験は20~40代の女性14人を対象に、入浴前後の肌水分量の変化を計測したもので、入浴後の皮膚水分量は図1のように変化しています(『日本健康開発雑誌 2018』より)。

 

図1:入浴前後の角層水分量の変化(無塗布)

『日本健康開発雑誌 2018』より

 

先日、朝のワイドショーでコメンテーターが「私の知人は浴室を出るとすぐ美容液を肌に塗りまくるんです。10秒以内に保湿しないと乾燥肌になるからといって。それを見て、私も見習っています」と発言して周りを驚かせていましたが、実験図によれば出浴1分後の皮膚水分量が最大値を示していますから、10秒は多少早いですが理にかなった対策といえるでしょう。その慌ただしさを、まねできるかどうかを別として。

お風呂に入れば皮膚はたっぷり水分を吸い、潤っているはずだと思いがちですが、30分経つと入浴前より減ってしまうという「事実」はちょっとショックかもしれません。なぜそんなことになるのかというと、お湯に浸かることによって入浴中は肌の水分量が2倍ほど増えるものの、皮膚表面の皮脂が洗い流され、体内の保湿成分であるセラミドが流れ出してしまうことにより、水分が蒸発しやすくなるからです。

早坂教授は2017年のこの実験に引き続き、入浴中に保湿すると、出浴後の肌乾燥予防にどんな効果を与えるかの検証も行いました。入浴中に保湿化粧品(泡状パック製品)を肌に塗布した場合としない場合で肌水分量を比較したのです。結果は、保湿化粧品を塗布したグループが無塗布のグループより出浴後の肌水分量が明らかに高くなりました。しかも驚いたことに、出浴1分後から約2倍近い水分量を保ち、出浴60分後まで入浴前の肌水分量をキープできたのです(図2)。

 

図2:保湿化粧品の有無による角層水分量の比較

『日本健康開発雑誌 2018』より

 

この二つの実験から、入浴後10分が保湿のリミットであること、浴室での入浴中保湿が出浴後の過乾燥予防に効果のあることが分かりました。では、どんな保湿成分が乾燥予防に適しているのでしょうか。

最近話題になっているのが、テレビのコマーシャルで盛んに流れている「ヒル」という言葉が付く薬。この薬の主成分は「ヘパリン類似物質」で、もともとは進行性指掌角皮症、皮脂欠乏症、血栓性静脈炎、瘢痕・ケロイドなどの治療と予防に対する効果が認められている健康保険適用の薬です。したがって、医師が病名を診断して初めて健康保険適用薬として処方されるものです。ところがこのヘパリン類似物質には保湿効果がある、との噂が広がって、美容液や美容クリームとして使用する人が増え、数年前から保険適用外で処方されていることが社会問題化していました(テレビCMの「ヒル」は処方箋なしで購入できる市販薬)。

薬品名の一部になっている「ヒル」は、漢字で書くと「蛭」。あの吸い付いて血を吸う生物です。蛭は人間に吸い付いた時にヒルジンという物質を唾液腺から出しますが、そのヒルジンの性質がヘパリンに似ているためにヘパリン類似物質と呼ばれるようになったそうです。

ところで、保湿剤には軟膏、クリーム、ローションなどいくつかのタイプがあります。いずれもベースとなる成分(基剤)に有効成分(例えばヘパリン類似物質)を混ぜ合わせて作られているものです。

軟膏は、ワセリンなどの油性基剤をベースにした塗り薬です。刺激が弱く、肌の弱い方にも向いています。カサカサ乾燥した患部にも、ジュクジュク湿潤した患部にも広く使うことができ、クリームよりも保湿力が高くて皮膚を保護する効果がありますが、クリームに比べるとベタつきが強く、そのため軟膏を嫌う人が多いのも事実です。

クリームの基剤は、水と脂肪を界面活性剤で混ぜたもの。さらっとなめらかでのびがよく、ベタつきにくいので軟膏より好まれます。水で簡単に洗い流せるのですが、汗などでも流れてしまうのが欠点です。軟膏に比べて刺激が強いのも場合によっては短所となります。

ローションは水やアルコールに有効成分が入ったものです。即効性にすぐれるので、かゆみ止めや痛み止めに適しています。一番使用感が良い反面、持続時間が短く、物足りなさを感じることもあります。

保湿剤にはこのほか、スプレータイプのものもあり、液体状だったり泡状だったりとタイプの異なるものがあるので、ドラッグストアなどで購入する際には迷いがち。どのタイプを選ぶべきかは店頭の薬剤師や登録販売者に相談し、使い方や目的により適したものを教えてもらいましょう


th_4

銭湯の検索はWEB版「東京銭湯マップ」でどうぞ