コロナ禍はリモートワークをしている多くの人や、外出を控えてひっそりと暮らしている人に、肥満という別の悩みをもたらしているようです。適度な運動をしなければ太る、というのは当たり前のことですが、オーストラリアのクイーンズランド大学とマードックチルドレンズ研究所(MCRI)は、「肥満や過体重は新型コロナウイルス感染症を重症化させる危険因子になる」と述べています。感染拡大を防ぐための正しい生活様式が、感染した場合のリスクを高めている、という不条理な状態がコロナ禍の現在なのです。私たちはいったいどうすればいいのでしょうか?
そのオーストラリアの調査では、中国、アメリカ、イタリア、南アフリカ、オランダなど11ヵ国の18の病院に入院した新型コロナウイルスの患者を対象に調べたところ、18歳以上の7,244人の患者のうち、34.8%が過体重で、30.8%が肥満だった、つまり65%以上が太っていたということなのです。太ることが免疫力を低下させている、ということなのかもしれませんが、この点は十分注意しなければならないでしょう。
一口に「太る」といっても、「脂肪太り」と「水太り」の2つのタイプがあります。前者は脂肪が増えすぎることによる、後者は体内の水分が停滞するむくみによる体重増加です。
まず、脂肪太りから見ていきましょう。体内に蓄積された脂分のことを「体脂肪」といい、全身のさまざまな部位に存在します。筋肉のすき間にも体脂肪は付着しています。このような体脂肪が過剰に蓄積することを「肥満」といいます。肥満対策はいうまでもなく減量ですが、通常、減量のために最初にとるべき対策は「バランスの良い食事を心がける」「カロリー制限」「適度な運動の継続」でしょう。しかし、巣ごもりによるストレスが原因で食べ過ぎている人や、そもそも運動が苦手な人にとっては、この「当たり前の対策」に取り組むこと自体が難しいのではないでしょうか。
ならば、まずストレスをどう取り除くか、が課題となります。私たちの体は、ストレスを感じると「コルチゾール」という通称「ストレスホルモン」が分泌されます。これは恐怖を感じたときに「闘争」や「逃避」のために身体活動を活発にするためのホルモンで、体内の糖をエネルギーとして使う働きがあります。
分泌されたコルチゾールは体内の各器官で効果を発揮しますが、その濃度が高くなると脳の働きによって分泌が抑制され、その濃度を低く保つように制御されています。しかし、過剰なストレスを受け続けるとこの抑制システムが壊れて、コルチゾールの分泌が慢性的に高くなり、うつ病、不眠症などの精神疾患や生活習慣病の一因となることが分かってきています。増え過ぎたコルチゾールは成長ホルモンの働きを阻害し、基礎代謝を低下させて脂肪が燃焼しにくい体にしてしまいます。巣ごもり→ストレス→コルチゾールの分泌増加→脂肪の増加という悪循環がこうして生まれます。
この循環をどう断ち切るか? そこでやはり“お風呂”の出番となるわけです。実は、東京都市大学教授(医師)の早坂先生が2020年に銭湯で行った実験で、40℃で10分の全身浴をするだけでコルチゾールが優位に減ることを明らかにしました。「お風呂に入ると気分がスッキリ」は、こういうことだったのですね。
冊子『実験でわかった入浴法による効果の違い』では、入浴によるホルモンの変化などについて紹介しています(リンクよりPDFでご覧になれます)
ちなみに、コルチゾールは美肌の大敵でもあります。ポーラ化成工業株式会社は、コルチゾールが線維芽細胞に作用して、神経を刺激する成分の産生を促していることを発見したと2020年7月に発表しました。ストレスを感じたときに肌の赤みやごわつきが起こりやすいのはこのためだと推察できます。同社は2018年にも、コルチゾールが表皮細胞のうるおい成分を減少させてしまうことを突き止めており、これらの研究を活用することで、ストレスを感じがちな現代人の肌を健やかに導くことができると期待されます。
同社の発表によりますと、心身にストレスを受けると血液中のコルチゾールが一時的に増加し、特に秋冬は夏に比べて増えることも知られています。そしてコルチゾールは、線維芽細胞の細胞骨格を乱すというのです。実際にコルチゾールを線維芽細胞に添加し培養すると、通常は細胞内に均一に存在している細胞骨格が太く繊維質になり、細胞内での分布も不均一になることが観察された、と述べています。その結果、コルチゾールで細胞骨格が乱れたときに、肌の赤みやごわつきにつながることが分かったのです。
さらにこの研究で、コルチゾールによる細胞骨格の乱れを修復する成分を探索した結果、スイートアーモンド油にその効果があることを発見しました。このことから、スイートアーモンド油を配合した化粧品を使用することで、ストレスを感じたときに起こりやすい肌の赤み、ごわつきが解消することが期待される、と述べています。
この研究とは別に、ダマスクローズの精油の香りがコルチゾールの分泌を減らすという報告もあります。ちょっとぜいたくなバラ風呂に入ったり、ダマスクローズの精油が配合された化粧品を使うのもいいでしょう。
まだまだ先の見えないコロナの時代、ぜひコルチゾール対策としての新しい入浴生活を心がけてみてはいかがでしょうか。次回は「水太り」の対策について解説します。
(次号に続く)
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