世界各国の幸福度をランキングで示す国連の「世界幸福度報告書」2021年版によると、1位は4年連続でフィンランド。2位はデンマークで、スイス、アイスランド、オランダと続きます。
3月の米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によるとフィンランドは人口約550万人、新型ウイルスの感染者は7万人強、死者が805人。欧州諸国の大半よりもはるかにうまくパンデミックに対処できていると評価されています。人口100万人あたりの感染者数は日本より多いとはいえ、もしかしてサウナの国だから!? とサウナと新型コロナウイルスとの関係を調べたくなるところですが、残念ながら感染者数のピーク時はフィンランドも公衆サウナや共同サウナは閉鎖されていたようで、日本同様、サウナに入れないことをストレスに感じる人もいたようです。
今回の調査で幸福度が高い理由について、フィンランドは「パンデミックの最中、人命と生活を守るのに役立つ、他者との相互の信頼関係に関する複数の指標で非常に高い順位を示した」といわれています。コロナ禍で得た「人とのつながり」が、幸福度にプラスの影響を与えたということです。
それでは、わが日本の幸福度は世界的に見て何位だったのでしょうか? 2017年から 51位、54位、58位、62位と順位を落とし続け、今年はなんとか56位まで浮上。この調査が始まった2012年以来、最高でも43位止まりで決して誇らしい成績とはいいがたいのです。
この結果は、銭湯通いをしている方からすると「本当にそうなの?」と疑問に思うかもしれません。なぜならば、過去に全国浴場組合が日本健康開発財団と東京都市大学に委嘱して行った調査で、「頻繁に銭湯通いをする人は幸福度が高い」ことが明らかにされているからです。そうはいっても「幸せ」の感じ方なんて人それぞれのはず。漠然とした「幸せ」を調査する方法にはどんなものがあるのでしょうか。医学的に調査する指標の1つとしては、幸せホルモンと呼ばれる“オキシトシン”があります。
オキシトシンはこれまで出産や子育てに関連する「母性愛のもととなるホルモン」として知られてきましたが、性別や年齢を問わず誰もが分泌することがわかり、近年は「幸せホルモン」として注目を集めるようになりました。ほかにも「抱擁ホルモン」「恋愛ホルモン」「愛情ホルモン」「信頼ホルモン」「絆ホルモン」「思いやりホルモン」など多くの異名を持ちます。
自治医科大学・尾仲教授のとあるインタビュー記事によれば、オキシトシンの具体的な作用には、抗ストレス作用、摂食抑制作用などがあるとのこと。抗ストレス作用は、例えば、GABAニューロン(抑制系のニューロン)を活性化するなどして、恐怖刺激に対する「すくみ行動」を抑制することが動物実験によってわかっています。そのほかにも、オキシトシンを人に投与すると、他人に対する信頼感が増すという報告があり、自閉症スペクトラムの患者さんに対しては、前頭前野の活動が回復し症状の改善が見られたという報告もあります。
また、うつ病と関わりのある海馬の神経細胞の新生を促進させる作用も見られ、うつ病を改善する可能性が明らかになりつつあるといわれています。心のストレスが大きな社会問題となって久しい現代において、健康づくりの鍵となるホルモンであることは間違いなさそうです。
さらにうれしいことに、福島県立医科大学によるマウスでの実験報告では、オキシトシンで過食が抑えられるだけでなく、臓器にも作用してエネルギー消費量を増加させ、内臓脂肪と皮下脂肪を共に減少させるということがわかりました。肥満度の高いマウスほど効果があったといいますから大変興味深いデータです。他にも、オキシトシンは肌の傷を治す幹細胞の動きを活性化して皮膚のターンオーバーを促進するともいわれていて、幸せになるだけでなく見た目も美しくしてくれる、まさに魔法のようなホルモンなのです。
こうなると、いますぐオキシトシンを増やしたい! と誰もが思うことでしょう。コロナ禍にあって、不用意な接触やマスクなしの会話はリスクとなるため十分な注意が必要なのはいうまでもありませんが、オキシトシンを増やすにはマッサージやハグなどのスキンシップやおしゃべりが有効とされています。スキンシップは10分くらいでオキシトシンが分泌される、マッサージは1秒間に5cmくらいの速度でゆっくりやさしくなでるとオキシトシンがより分泌しやすくなるということがわかっています。ただし、触れてほしくない相手とのスキンシップは効果が期待できないそうなので、その場合はセルフマッサージでよいとのこと。
また、花王の研究では手のひらで柔らかさや心地よさを感じることでもオキシトシンが上昇することがわかっています。ぬいぐるみを抱きしめたり、触り心地のよいタオルを使用したり、下着や衣類、寝具などにこだわってみるのもいいでしょう。ほかにも、映画や本で感動することや他人に親切にすることもいいといわれていますから、積極的に取り組めば確実に自分以外の誰かの幸せにもつながります。こうして“幸せの輪”が広がって行けば幸福の国フィンランドに少しでも近づけそうです。
生活の中で簡単かつ着実にオキシトシンを増やしたいなら「入浴」がいいでしょう。とりわけ大空間でゆったり入れる銭湯がおすすめです。さらに効率よく “幸福度をアップ”する入浴法として「温冷交代浴」があります。前述の全国浴場組合が行った実験で、温冷交代浴でオキシトシンが増加することが明らかになっています。体に無理のない範囲でサウナを活用するのもいいでしょう。
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熱烈な銭湯ファンから話を聞くと、銭湯でボロボロだった心が救われた、ヘトヘトに疲れていた心身が回復した、楽しい気持ちになれた、元気になれた、そんな経験をしたという声はとても多く、家にお風呂があってもあえて銭湯通いを楽しむ人は、まさに「銭湯で元気!」になっているのです。
銭湯はただ体を清潔にするところにあらず。現代社会において、ワンコインで心身ともに極楽気分が味わえるパワースポットです。東京都内にはそんな場所が約500軒もありますから、利用しない手はありません。幸せを感じたい、そんな人はぜひお近くの銭湯の暖簾をくぐって欲しいと心から願うばかりです。
最近限定販売が始まったゆっポくんのぬいぐるみはとても抱き心地が良いと好評。東京銭湯ストアで購入できます。
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