新型コロナウイルスが招いた災難や危機的状況、いわゆるコロナ禍も発生してからすでに1年半近くになります。発生当初こそむやみに恐れていたものの、さまざまな情報が蓄積されて「賢く恐れる」スタイルが少しずつ定着してきたようにも見えます。それにもかかわらず、死亡率や重症化率が高くなる中で、コロナ禍の深刻さはとても収まるどころではありません。

いうまでもなく新型コロナウイルスが原因の病気は、カゼやインフルエンザと同じ感染症です。感染症は多くの場合、原因となる細菌やウイルスが体内に侵入して棲みつき(例えばPCR検査で陽性の状態)、細胞の中に入って増殖(感染)することによって発症するものとされています。ということは、ウイルスが体内に侵入して棲みついても、細胞に入って増殖しなければ症状は現れません。つまりウイルスが細胞の中に入るかどうか(細胞に侵入しても増殖を食い止められるかどうか)がポイントになるわけで、戦でいえばそこが最前線なのです。

この最前線で活躍するのが「免疫力」という軍隊。軍隊の戦力を高めることによって、体に取り付いているかもしれないウイルスをやっつけられる可能性が出てくるわけです。

ところで「免疫力」という言葉をよく聞きますが、実は医学用語ではありません。体内のさまざまな免疫細胞が連携して行うチームプレイによって、病原体に対する抵抗性を発揮することを一般に「免疫力」というわけですが、ある免疫細胞の活性が高いだけで免疫が機能するわけではないのです。ホームラン王の4番バッターがいても、必ずしも強いチームにならないことと同じです。チーム全体がきちんと連携していることが、免疫機能の高い状態といえるのですが、その状態を特定の指標(例えば白血球数など)で測定することはかなり難しいと専門家は語ります。

つまり、自分は免疫力が高いのか低いのか、それは確かめようがないのですが、しょっちゅうカゼをひく人、毎年インフルエンザにかかってしまう人などは当然免疫力が高いとはいえません。したがって、そういう人は新型コロナウイルスに対してもとりわけ注意を払わなくてはならないことは、いうまでもありません。

さて前置きが長くなりましたが、最前線の免疫軍を強くするために銭湯が絶好の訓練場になる、というのが今回の本題です。まず、肝心の免疫軍の顔ぶれを簡単に紹介しましょう。

免疫軍はざっくり、2つの部隊からなります。それぞれ「自然免疫」と「獲得免疫」という言葉でくくられており、この2つの部隊を仕切る総司令官として「樹状細胞」がいる、というふうに理解してください。

「自然免疫」部隊は、生まれつき体に備わっているもので、体の中に異物が侵入してくると、すかさずそれを飲み込んで消化してしまう殺し屋「マクロファージ」、常時体内をパトロールして、ウイルスに感染した細胞を見つけると司令官の指示がなくても単独で攻撃を仕掛ける「NK細胞」、比較的大きな病原菌を専門に殺滅する「好中球」などから編成されています。

「獲得免疫」部隊は、生まれてから成長するにつれて獲得される免疫(ワクチンの接種によっても獲得されます)で、体内で異物と戦うシステムを構成します。総司令官の樹状細胞から得た異物情報(抗原)で、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を攻撃するキラーT細胞、抗原情報に基づいてサイトカインなどの免疫活性物質と呼ばれる兵器の生産をするヘルパーT細胞、骨髄に潜んで異物を攻撃する「抗体」という兵器を作るB細胞などがメンバーになっています。

免疫軍の素性は奥が深いため、主要メンバーとその役割しか紹介できませんが、銭湯で強化訓練が可能なのは「自然免疫」部隊です。「自然免疫」は役割の大切さに比べて実は結構脆弱で、自律神経の乱れ、疲労、暴飲暴食、睡眠不足、運動不足など、日々の生活習慣に非常に左右されやすい傾向があります。言い換えれば、精神の安定、疲労回復、食事、睡眠、運動の5つが「自然免疫部隊」強化のポイントとなるのです。温熱効果、浮力効果、静水圧効果という3つの代表的な効果を持つ浴槽入浴が、食事以外の4つの強化ポイントに深くかかわっていることは、これまでこの「銭湯で元気」のコーナーでたびたびお話してきました。

中でも体温を上げる温熱効果は重要です。カゼのウイルスが気管に付いていても、それだけで感染、発症するわけではないのですが、たまたまその時体温が低くなっていると「自然免疫」が機能しなくなって、ウイルスの活性化を許してしまいます。PCR検査をしてみると、ほとんどの人が気道にカゼのウイルスを持っていることが分かるはずだ、といわれている(※)ほどですから、私たちはいつでもカゼをひく状態の中で生活しており、ひかないのは免疫力が活発に働いてくれているからなのだ、と理解すべきでしょう。

(※)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75285?page=4

繰り返しますが、「自然免疫」は体温の影響を受けやすいのです。専門家によって多少違いはありますが、「体温が1℃下がると免疫力は3割低下し、1℃上がると5~6倍アップする」などと体温維持の重要性が唱えられています。体温が低くなると全身の血流も低下し、酸素や栄養が体の隅々まで届かなくなります。

さらに湯船に浸かってきちんと体を温めることによって、汗をかいて老廃物が体外に排出され、リンパの流れがよくなるために体内に細菌やウイルスが侵入しても免疫軍が素早く反応して戦ってくれます。すなわち、免疫力の向上が期待できるのです。銭湯の広い湯船に浸かれば、リラックス脳波といわれるα波が家庭の風呂に浸かるよりもたくさん出ますから、副交感神経が刺激されて、弱くなりかけた「自然免疫」も復活するというわけです。

人によって適正な入浴時間やお湯の温度は異なりますが、医学的には40℃のお湯に15分ほど肩まで浸かることが推奨されています。また、入浴剤自体に免疫力を向上させる効果はありませんが、体の芯まで温めて湯上がり後も体温をキープするために、銭湯に薬湯の浴槽があればぜひ利用しましょう。

毎日バスタイムを楽しんでいるのに体温が上がらない、という人がいます。シャワーだけで済ませる人、2~3分で湯船から出てしまう人、短時間の半身浴しかしない人、お風呂上がりにエアコンや扇風機で体を冷やす人、湯上がり直後にビールを飲む人……。残念ながらこういう習慣のある人は、免疫軍の強化トレーニングは期待できません。

いつもの注意事項ですが、免疫力を高めるための入浴とはいっても、水分補給は必ず守ってください。入浴前後に水分を取ることは思いがけない事故を防ぐために大切なことです。また、コロナ禍の銭湯利用については、くれぐれも「黙浴」でお願いします。免疫力を鍛えても、そこでウイルスのやり取りをしてしまっては元も子もありませんから。
(以下、次号)


th_4

銭湯の検索はWEB版「東京銭湯マップ」でどうぞ