前回、銭湯での温冷交代浴の入浴法として「最初に体の汚れを落とすために全身を洗います。その後、40℃のお湯に3分間、肩まで浸かります。その後湯船から出て、30℃くらいのぬるま湯をシャワーで手の先、足の先に30秒ほどかけます。これを3回繰り返し、最後はお湯に浸かって上がります」と紹介しました。これは『銭湯検定公式テキスト2』に沿った内容です。

空前のサウナブームの影響か「温冷交代浴」が盛んに行われるようになり、WEBサイト上でも様々な人々がガイドしています。ここで少し気になるのが「温冷交代浴の最後は水(冷浴)で終わること」と多くのサイトで書かれていることです。冷浴、といっても適切な水温が示されていなかったり、前回このコーナーで示した健康上の懸念事項についてはほとんど触れられていなかったりするケースも多々あります。

あるサイトでは、

「温冷を交代で行うのですが、最後は水で締める、これが鉄則です。最後に毛穴を引き締めて血管を収縮させることで体内の熱を逃がさないようにするので、お湯で終わってしまっては効果が半減します」
(SportsnaviDO)

と書かれています。

また別のサイトには

「温冷浴は、お風呂で温まった熱を体内に閉じこめることができる、冷え性にはもっとも効果的な入浴方法です。温冷浴で自律神経のバランスを回復しましょう。(中略)お風呂でしっかり温まっても、冷え性の人は体がすぐに冷えてきてしまいますよね。温まって広がった血管が、湯上がり後も広がったままの状態、どんどん熱が体外へ放出されてしまうのが原因らしいです。風呂から上がるときに、広がった血管に冷たい水をかけ、血管を収縮させることで熱を閉じ込めた状態にできます。これを積極的に行う温冷浴は、温かさを持続させることができるらしいのです。(中略)最後は水で終わってください。温度差は、30度ぐらいがよいようです」
(横浜スカイスパ オフィシャルニュース)

という説明がされていました。

いずれも、冷浴で終えることのメリットを並べ推奨しています。実際にこの入浴法が体にあっている人もいるでしょう。しかし、温冷浴の温度差が体に刺激を与えたり、最後の冷浴によい効果を感じない人がいるのも事実。一体どのように考えればよいのでしょうか。

これらとは少し異なる見解が別のサイトに書かれていました。

「温度変化の環境に体が耐えられるよう積極的に訓練する目的で、3分程度の温水(38℃以上~熱く感じる温度でよい)入浴と20秒~1分程度の冷水(25℃以下、18~20℃くらいが適当)入浴を交互に行います。最初は我慢できる温度から始め、徐々に温度差を広げていってください。(中略)
『温』で終わるか、『冷』で終わるかは……
●寝る前、寒いとき、慣れていない人は、『温』で始まり『温』で終わる。
●寒くないときは、慣れてきたら、『冷』で始まり『冷』で終わる」
(温泉ソムリエの癒し温泉ガイド)

その根拠は、「慣れると血管の拡張、縮小が容易になるので、『冷』で血管を引き締めた後、自ら血管を広げようとする力が働き、血行がよくなるからです」とされています(温泉ソムリエが教える!幸せになる入浴法)。冷浴で血管の収縮をさせるという点で前者と一見論理が似てはいますが、後者はその後血管が広がって血行がよくなるから体が温まるのだ、としている点で見解の相違は明らかです。いったい何が正しいのでしょうか。そして、温冷交代浴は冷浴で終える、ということ自体どうなのでしょうか。

『銭湯検定公式テキスト2』(草隆社)の監修者で、『最高の入浴法』(大和書房)の著者である東京都市大学の早坂信哉教授にうかがってみました。

「冷水浴をしますと、当たり前のことですが体温(特に皮膚温)が急激に下がります。体温が下がりますと回復までに約1時間以上時間がかかります。体温が低下すれば血管は収縮し、血流の改善効果は低下してしまいます。お風呂の最大のメリットは、温熱効果によって血管を拡張させ血流を改善させることです。そのため、場合によって入浴後は毛布などで包み、保温を進める場合もあるくらいです」

アスリートの運動後の筋肉疲労回復のためであれ、冷え性対策であれ、温かいお風呂に入るのは温熱効果で体を温めることが最大の目的です。

確かに、温浴と冷浴を交互に行うことにより、血管が拡大と収縮を繰り返して血管のポンプ作用を向上させ、血流が滞りがちな体質を改善することができます。また、交感神経と副交感神経の両方を刺激する結果、自律神経のバランスを調整することができます。それが温冷交代浴のねらいであり、実際に効果を感じる人もいるようですが、その一方で冷浴を苦手だと感じる人は、最後に冷浴で体を冷やして血流が下った後、回復しにくいなどの問題があるのかも知れません。何が心地よいかは年齢や持病、個人の体質の違いも関係あると考えられますが、医学的にいえば、必ずしも「冷浴で終わらせるのがベスト」ということではなさそうです。

「いや、そんなことはない」「冷浴で終えた後のほうがポカポカして気持ちいい」という人もたくさんいるかと思いますが、これはホメオスタシス(恒常性維持機能)といわれる作用で、環境が変化しても体の状態を一定に保とうとする生体的な働きによる感覚です。いろいろ試したうえで、自分に合う入浴法かどうかを第一に考える必要がありそうです。(以下、次号)


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