10年ほど前からにわかに注目されてきた入浴法に「温冷交代浴」があります。水温の差がある2つの浴槽に交互に浸かることによって、普通の温浴(例えば40℃の湯に10分浸かる)とは異なる健康効果が得られる、というのが注目されてきた理由です。
温冷交代浴に必要な設備はお湯の浴槽と水風呂、というのが一般的。お湯に浸かるわけではありませんが、熱い空間で体を温めてから水風呂に浸かり、外気浴で体温調整するサウナも温冷交代浴のひとつです。疲れた、早起きがつらい、食欲がない、仕事に熱中できない、眠りが浅く、ささいなことが気になってならないなどの自覚症状があるものの、医学的検査を受けてもとくに悪いところもない、という現代人にとって、調子を取り戻すために温冷交代浴をするのがよいといわれています。
2020年5月に発行された『銭湯検定公式テキスト2』によれば、「温冷交代浴は、もともとヨーロッパで温泉療法の一つとして行われてきたものですが、最近ではアスリートが疲労回復の手段として積極的に取り入れるようになってきました。2013年には温冷交代浴の大規模な研究が行われ、この入浴法を評価した結果が海外で発表されました。その結果、疲労回復や筋肉痛の緩和などを含む多くの指標で、温冷交代浴がすぐれていることが分かったのです」と温冷交代浴の研究背景が述べられています。
温冷交代浴は疲労を回復させるだけでなく、スポーツのパフォーマンスを向上させる効果も期待されており、温冷交代浴によってケガの予防や筋肉の回復をサポートする働きがあることが分かった、ということです。
温冷交代浴をすると体の中でどんな変化が起こるのでしょうか。まず温かいお湯に浸かると、温熱効果で血管が拡張します。次に冷たい水が体に触れると、筋肉と血管が収縮します。このように血管が拡大と収縮を繰り返すことによって、血管のポンプ作用がアップします。そして全身への血流がよくなり、滞りがちな末梢の血行も改善することになります。だからお風呂で体を温めると足のむくみが取れたり、内臓が活発に動くようになったり、老廃物や疲労物質が除去されたりするのです。また、冷やした後により深いリラクゼーション効果が生まれるといわれています。
では、銭湯で温冷交代浴を実践するにはどのようにしたらいいのでしょうか。
入浴前にまず水分の補給を忘れないでください。最初に体の汚れを落とすために全身を洗います。その後、40℃のお湯に3分間、肩まで浸かります。その後湯船から出て、30℃くらいのぬるま湯をシャワーで手の先、足の先に30秒ほどかけます。これを3回繰り返し、最後はお湯に浸かって上がります。
つまり水風呂の設備がなくても、温冷交代浴は十分実践できます。しかし、これまで水風呂で温冷交代浴を実践してきた人にとっては、30℃では冷たくなくて物足りないかもしれません。しかし、『最高の入浴法』の著者である早坂信也教授は、「生理学的には10℃の違いで十分交感神経への刺激になるのです。もちろんこれに慣れてきたら、冷浴の温度をもう少し下げてもかまいませんが」と述べています。
銭湯では42℃以上の熱めの浴槽もあります。この場合は2分程度の入浴後に、30℃くらいの冷水浴を1~3分行うといいでしょう。最近の温冷交代浴ブームの背景には、温浴で汗が噴き出した体を水風呂にざぶんと浸けることで得られる爽快感がきっかけになっていることも多いようです。しかし、医学的に見るとこれは血圧の急上昇などのデメリットが大きく、むしろ期待する効果は得にくいと考えられています。
「温冷交代浴の効果を得るために大切なことは、少しずつ慣らすことです。お風呂に入って体が温まっていても、一気に水風呂に飛び込むのは血管や心臓に負担がかかるから絶対にいけません。いきなり水に浸かると急激な血圧上昇が起こり、脳卒中を起こすリスクがあるほか、心臓に強い負荷をかけ心筋梗塞や狭心症発作や不整脈を起こすこともあるので注意してください」(『銭湯検定公式テキスト2』)
温冷交代浴による爽快感が魅力でも、高血圧や心臓に持病を抱える人は心臓への負荷が強過ぎるので、避けたほうが無難です。どうしても試みたい方は、温と冷の温度差をさらに縮めるなどの工夫をすることです。
カゼをひいているときに温冷交代浴はNGですが、ふだん温冷交代浴をしている人がカゼをひきにくくなった、という経験を語る人もいます。アトピー性皮膚炎や花粉症などが改善した人もいるそうです。医学的な検証がまたれますが、免疫力の向上や抗アレルギー効果が期待できるのかもしれません。
温冷交代浴についてはいろいろな研究や発表が行われており、それらを踏まえながらさらに詳しく掘り下げてお伝えしていきたいと思います。例えば、サウナによる温冷交代浴と浴槽入浴による温冷交代浴の違いなどは気になるところです。(以下、次号)
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