肌の乾燥が身にしみて感じられる季節になりました。あるテレビの健康番組で、お医者さんが、「肌の乾燥を防ぐには、まず体を洗って、それから湯船につかるのがいい」と解説していました。湯船につかって温まると体の表面の皮脂が剥がれて浮いてくるので、この状態で体を洗うとさらに皮脂が奪われガサガサになる、というのが根拠でした。なるほど、と思いました。
湯船につかるとどのくらいの皮脂が奪われるのか、何度の湯に何分つかるとどうなのか、前述の説の裏付けを取りたくて調べてみましたが、なかなかそれが見つかりません。あれこれ調べていくと、全く反対の説に巡り合いました。これもあるお医者さんの発言です。
それによると、「体を洗った後は皮膚のバリア機能が低下するので、その後で湯船につかると細胞間脂質などが漏れ出して肌がカサカサになる。よって体を洗うのは湯船を出てから、入浴行為の最後がいい」というのです。これもなるほど、です。
ちなみに肌の表面がどうなっているのか確認してみましょう。私たちの体を覆っている皮膚には、外からの異物、例えば細菌やウイルスの侵入を防ぎ、体内から水分が蒸散するのを防ぐバリア機能があります。この役割を担っているのが表皮の一番外側にある角層(角質層)。角層の構造は、天然保湿因子と呼ばれる水分を抱え込んだ角質細胞と、その角質細胞間を埋める脂質(細胞間脂質)でできています。よく、煉瓦とコンクリートにたとえられる構造です。その角層表面は皮脂膜と呼ばれる水分(汗)と脂が混ざった、よくクリームにたとえられる膜に覆われています。角質細胞、細胞間脂質、皮脂膜の3つの要素で皮膚のバリアが成り立っているのです。
一般的に、私たちが乾燥肌と呼ぶ症状は、医学的には「乾皮症」「皮脂欠乏症」「皮脂減少性皮膚炎」などといいます。つまり皮膚の脂肪分が減少することによって、それが守っている皮膚の水分が失われ、乾燥状態をもたらすというもの。簡単にいうと皮膚のバリア構造が壊れたということです。肌の乾燥はしわの原因。誰もが恐れる肌の老化の出発点です。
では、体を先に洗うか、湯船に先につかるかの問題と、皮膚バリアの崩壊とはどのような関係にあるのでしょうか。入浴医学の権威、東京都市大学の早坂信哉教授に伺ってみました。
「おそらく正解はないのだと思います。論文も私の知る限り、ありません。どちらの説ももっともなのですが、どちらが正しいかということになると、何を評価項目にするかで変わってくるかと思います。きちんと研究すべき課題でしょうね」
つまり現時点で、この問題は乾燥肌対策の重要ポイントではないかもしれない、ということでしょうか。それどころか、乾燥肌を防ぐためにはもっと大切なことがありそうです。新著『最高の入浴法』(大和書房)で、早坂教授は乾燥肌防止のポイントを5つあげています。
① 熱いお湯は肌からうるおいを奪ってしまうので42度以上のお湯には入らない。
② お風呂から上がった後の保湿ケアは10分以内に行うのがポイント。
③ 汗もかいていないのに、1日に何度もお風呂に入らない。長湯も禁物。
④ 皮脂を洗い流し去る界面活性剤(石鹸やボディソープ)の使用は2~3日に1回(ただし乾癬の多い場所=わきの下、肩甲骨の内側などや陰部は別)。
⑤ ラップ1枚の薄さの角質層を守るためにタオルやスポンジでゴシゴシ洗わない。
詳細は本書をお読みいただきたいのですが、④の界面活性剤について触れておきましょう。界面活性剤は天然のものと合成のものの2種類に分かれ、「純石鹸分」あるいは「石鹸素地」と表示されているものは天然界面活性剤です。よく洗い流すという機能の部分では天然界面活性剤はやや劣りますが、毒性や残留性が少ないので、安全性は合成のものに比べて高いといわれています。界面活性剤について、詳しくは別稿で解説したいと思いますが、石鹸で洗おうがボディソープで洗おうが、どれだけ流しても洗った後の肌にはかなりの残滓があるとも指摘されています。
最初の問題、湯船は先か後か、に戻りますと、体に着いた界面活性剤をできるだけ除去するためには、湯船につかるのは後にしたほうが賢明かもしれません。特に銭湯では、「体を先に洗う」がマナーですから、このマナーが美肌作りと大いに関係しているともいえるのです。
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